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三井生命が大樹生命に改名してはいけない理由

最近CMでよく流れているので、三井生命が2019年4月1日から大樹生命に社名変更することをご存知の方は多いでしょう。一方で、このニュースを聞いて「なんでそんなことする必要あるの?三井の名前の方が良いんじゃないの?」と思った方もいるかもしれません。

結論から言うと、その直感は恐らく正しいです。今回は三井生命が社名変更する背景と、私がそうすべきではないと考える理由についてお話します。

目次:
1:三井生命はなぜ社名変更するのか
2:そもそも会社はどんな時に社名変更するのか
3:三井生命が社名変更すべきでない理由

1:三井生命はなぜ社名変更するのか

三井生命が社名変更するのは、2015年9月に日本生命保険(以下、日生)に株式買収され日生の子会社になった為です。それまでは三井住友銀行やその他三井系グループが筆頭株主に名を連ねていました。ちなみに出資比率は日生85%、三井グループ15%なので、三井系も少数株主として留まってはいます。

これまで三井グループでは「商号商標保全会」という組織を作り、無関係な会社が勝手に「三井」の名前を騙ることなどに対抗してきました。この保全会が「三井」の名前を使うことを許す基準は公でないので良く分かりません。しかし今回の三井生命は日生の子会社となった以上、さすがにもはや三井とは言えない、との烙印を押された為に社名を変更するに至ったようです。2015年の子会社化から3年以上経ってからの社名変更であるところに、この3年間三井生命も名前を存続出来るよう抵抗してきたことが推測されます。

要は三井生命が社名変更するのは、三井グループの保全会がルール上ダメだと言ったから、ということですね。

2:そもそも会社はどんな時に社名変更するのか

三井生命の社名変更理由はわかりました。では、その他の企業は一般的にどのような場合に社名変更するのでしょうか。また、それにはどんな意味があるのでしょうか。

一般的に、企業が社名変更する理由は主に以下とされます。

(a)製品のブランド名と社名の統一 
 (e.g.松下電器がパナソニックになった)
(b)名前を省略する、カタカナやアルファベットにして簡易化する 
 (e.g.東洋レーヨンが東レになった、石川島播磨重工業がIHIになった)
(d)業種名を外す 
 (e.g.エステー化学がエステーになった)
(e)社名を縮めて造語にする 
 (e.g.オリエント・リースがオリックスになった)

上記を見ても分かる通り、重要なのは社名変更の主たる理由とは「顧客や市場にとって分かりやすい・覚えやすい名前にして認知度を上げる」ことであるという点です。
なぜこれが重要かと言うと、市場・顧客に訴求しやすい名前になることによって業績もアップするとの思惑が働き株価が上がる傾向がある、つまりその企業の価値(企業価値と言います)が上がるからなんです。名前を変えるくらいで?と思う方もいるかもしれませんが、少なくとも日本の市場では研究で有意な結果が出ています。

3:三井生命が社名変更すべきでない理由

上記の通り、社名変更の最大目的は市場認知度を向上させ、究極的には企業価値を増大させることです。
そう考えたとき、今回の改名は果たしてその目的に沿っているでしょうか?

大樹生命の「大樹」は三井生命の保険商品名から取っています。その意味では2:の(a)の改名理由にあたる訳ですが、とは言え「大樹」よりも三井の名前の方がブランド価値があることは明らかです。それをあえて認知度の低い名前に変えるのは、企業価値を減少させる行為となり得ます。

「企業価値の増大」は全ての企業の必達命題です。企業は株主や債権者から出資・融資を受け、それら資金調達に掛かるコスト以上の価値を還元して初めて存在意義が生まれます。

例えばある出資者が銀行から年利5%で借りてきた資金をある企業に投資しているのに企業の株主への還元率が年1%だとしたら、その企業は4%分お金の価値を毀損している訳です。これはこの投資家だけが損をするという話ではなく、経済全体にとって、他に回していたら5%以上で運用出来たかもしれない資金を1%で塩漬けにしている=景気を良くするための貴重な資金をドブに捨てている状態なのです。だからこそ全ての企業は、資金調達に掛かったコスト(これを投資専門用語でWACCと言います)以上の稼ぎを上げることを最低条件に、収益を最大化することを目指します。それが企業価値として評価され、市場で株を売買される際や、M&Aで企業価値算定する際の指標となる訳ですね。
従い企業はその企業価値を毀損するような行為を自主的に取るべきではない、という当たり前の結論が導かれます。これは企業の為でも、日本経済全体の為でもあります。

三井生命は非上場会社であることから、基本的には日生や三井グループら既存株主が改名したいのなら好きにすれば良い話ではあります。但し正当な「三井グループ」の一端であった三井生命を、「しきたりだから」というだけで改名し、企業価値に寄与しない道を自ら選ぶことは得策とは思えません。
三井生命自体は非上場でも、日生や三井グループの企業は上場企業であり、一般投資家もこれら株主企業の株式を保有しています。これら一般投資家に「しきたりなので子会社の三井生命は改名しました。なおこれで認知度は低くなるので同社の企業価値は上がらないでしょう」と果たして説明出来るのでしょうか。
もちろん公には明かされていない部分もあるのでしょうが、個人的には疑問の残る今回の改名でした。

以上

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