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1曲聴く間に伝えるAlliance Ethnik "Honesty & jalouse"

フランス90年代HIPHOP#3

Today's Choice:
Alliance Ethnik "Honesty & jalouse (Fais un choix dan la vie) feat. Vinia Mojica"
1995年発表

Music Links:
このシリーズのコンセプトは、「皆さんに1曲聴いて頂く間にざっくりその曲の魅力をお伝えすること」です。
日本ではあまり馴染みのないフランスのHIPHOPをご紹介するにあたって、細かい能書きよりもまずは音に触れて頂ければ。
そんなわけで、まずは↓のリンクで今回の曲を再生しながら読んでみて下さい。

Back Ground Review:
今回はフランス90年代HIPHOPの良心・Alliance Ethnik(アリアンス・エスニック)が1995年に発表した1stアルバム『Simple & Funky』から"Honesty & jalousie (Fais un choix dans la vie) feat.Vinia Mojica"(=正直さと嫉妬(あなた自身の選択を、人生で))です。
なおこの素晴らしい1stアルバムには他にもRemixでPrince Paulが参加。更に1999年に発表された2ndアルバム『Fat Comeback』には彼らの音楽性(後段で触れます)に呼応したCommon, Biz Markie, Rahzel, De La Soul, Youssou N’Dourら錚々たるメンツが参加しています。

-Alliance Ethnikという連帯

Alliance EthnikはメインMCのK-Mel(ケーメル)を中心とした、Crazy-BとFaster Jの2DJを含む5人組です。パリの北に位置するOise(ワズ)で友人の集まりとして1990年に結成され、IAM(本シリーズ#1ご参照)のフックアップなどを受けながらあっという間に人気になり、パリとNYでレコーディングした本作『Simple & Funky』が世界的にヒットしました。自分はリアルタイム世代ではありませんが、日本でも耳の早い人にはしっかり届いていたそうです。

そしてこの"Honesty & jalousie"を取り出してみましょう。プロデュースにはBob Power、フィーチャリングにはVinia Mojica。これだけでも伝わる方には伝わるでしょう、彼らのHIPHOPはフランス版Native Tongueとでも言うべき直系のニュースクールHIPHOPです。Native TongueでもATCQなどは時に非常にコンシャスに寄せたラップもしますが、まさにあの感じ。オーセンティックなパーティーソングを基調としつつも、Alliance Ethnikのラップは裏側のメッセージにコンシャスな主張が見え隠れします。ただやはり前面に出ているのはシンプルかつファンキーに楽しいHIPHOPであるということ。緩やかなバスドラが鳴り響き、景気の良い上ネタがソウルフルに鳴り響く、HIPHOPの知識や英語知識の有無に関わらず、誰が聴いても心地の良いアレですね。

そんな訳でフランスのHIPHOPを知らない人に対する訴求力という意味では抜群です。#2でご紹介したSuprême NTMがHIPHOPの「弱者の叫び」としての側面を切り取ってアメリカ以外でも実証した立役者だとすれば、Alliance Ethnikは「楽しく聴けて心地良い」側面を切り取って国際的にその効果を示して見せた立役者と言えるかもしれません。

-俺たちは他人の幸せを願ってるのに、実際に彼らが幸せになったら今度はそれを妬んでしまう (by K-Mel)

そんな彼らの"Honesty & jalousie"ですが、アルバム中でももうひとつの代表曲である”Respect”と並び、まずはともかく最高に楽しい名曲に仕上がっています。軽やかにフロウするK-Mel、それに呼応し優しヴォーカルするVinia、そこに更にダンサブルな響きを加速させるディスコからのサンプルネタ…。インストだけでもグルーヴィで楽しくなる、Native Tongueの人気が根強い日本でもかなり受け入れられる仕上がりではないでしょうか。

そんな軽やかな雰囲気の中で、実はメッセージ性も強い曲なんですよね。ViniaもHOOKで「いつだってあなたの心の中に進むべき道がある」と歌えばK-Melも「(他人の)成功が不快だったり欲を抱いたりするのは自然だけど、まあ健康的なレベルにしようぜ」と説く。個人的には他者ではなくあくまで自己の内面に解決策を求め続けるあたりが最高にHIPHOPだなと感じたりもするんですが、それもあってか押しつけがましさがなく、メッセージ性の強さが伝わったところで曲の楽しさが目減りしたりしないんですよね。何も考えずに気軽に聴いても良し、じっくり歌詞の内部まで踏み込んでも良しの、非常に懐の深い曲・グループだなと感じます。

とは言えHIPHOPの趨勢は、セールス面ではどうしても過激な方が目立ちがち。Alliance Ethnikも本作はゴールドディスクを獲得する程売り上げましたが、1999年に発表した『Fat Comeback』の際にはフランスでもギャングスタ寄りなHIPHOPが受ける時代になりつつあり、セールスはほとんど伸びなかったようです。その煽りを受けてグループも同年にそのまま解散してしまいました。

ここで過激化したHIPHOPについて云々言うつもりはありません。ただ、結果としてアメリカでもNative Tongue勢が衰退し、日本でもLB勢が自然消滅したように、フランスにおいてもニュースクールなHIPHOPは同時代に一瞬きらめいたのち、あまりフォロワーが続かない存在となってしまいました。そのきらめきが非常にまぶしく魅力的な為に、我々は未だにこのようなHIPHOPを求めている訳ですが。だからこそ「このようなHIPHOP」を探していたヘッズの方々、日米を掘り尽くしたからにはフランスにも来てはどうでしょう。Alliance Ethnikの残したきらめきもまた、日米のそれに比肩する輝きであることは既にお分かり頂けたことと思います。

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