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週末読書メモ111. 『シルクロード全史 文明と欲望の十字路』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)


東西の中間にあたる、地中海と黒海の東側からヒマラヤ山脈にかけての広い地域は、世界を読み解くにはふさわしくない場所に思えるかもしれない。
(中略)こうした国々は、私たちには未開にみえるかもしれないが、僻地というわけではない。知られざる不毛の地では決してない。東西を結ぶこの橋は、じつのところ文明の十字路だ。これらの国々は国際社会において日陰の存在どころか、その中心に位置している ー 有史以来ずっとそうであったように。ここはまさに文明誕生の地であり、多くの人々から人類創造の地であると信じられてきた ー

25カ国で刊行、世界100万部のベストセラー『シルクロード全史』。

その道を制するものが世界を制す。そう言われた場所「シルクロード」。

アレクサンドロス大王、イスラム、十字軍、モンゴル帝国、大航海時代と世界支配をかけた争いからはじまり、石油争奪戦、独ソ戦、冷戦、アメリカの台頭、湾岸戦争、テロ、アルカイダと富と暴力をめぐる対立の歴史まで。

日本にいると馴染みが薄い、シルクロード(特に中東)を舞台に、歴史の新たな視点を与えてくれる一冊となっています。


本書の内容は、中東(イスラム)の繁栄、欧州の征服、欧米の覇権争いの大きく3つの物語に分かれます。

イスラムによる征服は世界の秩序を塗り替えた。自身お寛容さ、進歩への強い熱意に支えられた経済大国が登場したのだ。きわめて豊かであり、政敵や宗教上の競争相手すらほとんどいない状況で、秩序は行き渡り、商人は裕福になり、知識人は尊敬され、異なる意見をぶつけ合い、議論を深めることができた。
(中略)十九世紀にはそんな若者が富と名声を求めて目指したのは西であり、アメリカ合衆国であった。ところが一〇〇〇年前、彼らが目指したのは東だった。

第1部(中東の繁栄時代)のポイントは、今は後進的に捉えられがちな中東地帯も、実は経済・政治・文化のどれを取っても先進的であったということ。

それも、欧州とは比べ物にならないほどに。現在の姿だけを見て、物事を判断するべきではないことを痛感させられます。


軍事技術にも同じことが言える。少数の征服者たちが数で圧倒的に勝るアメリカの先住民を征服できたのは、高性能な武器があったからだ。じつは武器以外に関しては、先住民は高度に発達した文化を持ち、進歩的だった。
(中略)ヨーロッパ人は未開の文明を発見したからこそ支配できたのだと考えたのかもしれないが、実際には、西の成功の基礎を築いたのは、武器や戦略、戦術を進化させるたゆまぬ努力だったのである。

第2部(欧州の征服時代)では、欧州が、南米やアフリカ、中東を征服していく様が描かれます。

そこで注目すべきことは、様々な点で劣っていた欧州が勝てた要因。それは、軍事技術の突き抜けた進化でした。その時代・世界において、何が生き残りの要因となるかを見極める重要性を感じざるを得ません。


二〇世紀の終わりから二一世紀初頭にかけて、アメリカとヨーロッパはさまざまな災難に見舞われた。東西を結ぶ重要な地域をめぐり、各国は自国の権益を維持しようと不毛な努力を繰り広げてきた。過去数十年間の出来事を振り返って目を引くのは、西洋には世界を俯瞰する歴史的視点が欠けているという事実だ。

そ第3部(欧米の覇権争い時代)で浮かび上がるのは、中東領域の混沌・混乱とした状況です。中東地域が少しづつ勢力や自立性を確立しつつある中で、各国間のせめぎ合いが書かれています。

だが、筆者はこうも言います、これは産みの苦しみだと。そして、長い戦禍と悲劇を経て、シルクロードがはいま、息を吹き返そうともしていると(その背景にあるのが、中国の一帯一路構想による膨大な投資であり)。


本書は、シルクロードを舞台に2000年以上の歴史を触れるため、テーマは多岐に渡り、読み手によって、得られる示唆が異なると思われます。

その上で、シルクロード最大の特徴は、何といっても、この場所が人類の欲望と憎しみが交錯し結びつけてきた場所であること。

一見したところ「異質」であっても、この地は昔から世界のなかで、多くの点できわめて重要な役割を果たしてきた。東西を結びつけ、古代から現代に至るまで、多様な思想や習慣、言語がしのぎを削り合う、るつぼとして機能してきたのだ。

文化の点でも、

イノベーションの点でも、

異なるものとの交わり結びつくことが、新たな創造に繋がると言う話は枚挙にいとまがありません。その際たる事例を、シルクロードの歴史は内包しています。

すぐに活かせるわけではない、けれど、心に深く残る一冊でした。


【本の抜粋】
東西の中間にあたる、地中海と黒海の東側からヒマラヤ山脈にかけての広い地域は、世界を読み解くにはふさわしくない場所に思えるかもしれない。
(中略)こうした国々は、私たちには未開にみえるかもしれないが、僻地というわけではない。知られざる不毛の地では決してない。東西を結ぶこの橋は、じつのところ文明の十字路だ。これらの国々は国際社会において日陰の存在どころか、その中心に位置している ー 有史以来ずっとそうであったように。ここはまさに文明誕生の地であり、多くの人々から人類創造の地であると信じられてきた ー

こうした振動は、あらゆる方向に広がるネットワークに沿って伝わっていった。巡礼者や戦士、遊牧民、商人が行き交い、商品や産物が運搬され、取引され、さまざまな考えが交わって変化し、洗練されていった道だ。
(中略)これらの経路は世界の中枢神経として機能し、人々や土地を結びつけているが、皮膚の下にあるため肉眼では見えない。解剖学が体の機能を説明するように、こうした結びつきを理解すれば、世界がどんなふうに機能しているか理解できる。

私たちはグローバル化を現代特有の現象であると誤解しがちだ。だがそれは、二〇〇〇年前にすでに起きていた。グローバル化は当時にあっても好機をもたらし、新たな課題を生み、技術革新を促す現象だった。

イスラムによる征服は世界の秩序を塗り替えた。自身お寛容さ、進歩への強い熱意に支えられた経済大国が登場したのだ。きわめて豊かであり、政敵や宗教上の競争相手すらほとんどいない状況で、秩序は行き渡り、商人は裕福になり、知識人は尊敬され、異なる意見をぶつけ合い、議論を深めることができた。
(中略)十九世紀にはそんな若者が富と名声を求めて目指したのは西であり、アメリカ合衆国であった。ところが一〇〇〇年前、彼らが目指したのは東だった。

軍事技術にも同じことが言える。少数の征服者たちが数で圧倒的に勝るアメリカの先住民を征服できたのは、高性能な武器があったからだ。じつは武器以外に関しては、先住民は高度に発達した文化を持ち、進歩的だった。
(中略)ヨーロッパ人は未開の文明を発見したからこそ支配できたのだと考えたのかもしれないが、実際には、西の成功の基礎を築いたのは、武器や戦略、戦術を進化させるたゆまぬ努力だったのである。

二〇世紀の終わりから二一世紀初頭にかけて、アメリカとヨーロッパはさまざまな災難に見舞われた。東西を結ぶ重要な地域をめぐり、各国は自国の権益を維持しようと不毛な努力を繰り広げてきた。過去数十年間の出来事を振り返って目を引くのは、西洋には世界を俯瞰する歴史的視点が欠けているという事実だ。

一見したところ「異質」であっても、この地は昔から世界のなかで、多くの点できわめて重要な役割を果たしてきた。東西を結びつけ、古代から現代に至るまで、多様な思想や習慣、言語がしのぎを削り合う、るつぼとして機能してきたのだ。

二〇一三年に習近平が提唱した一帯一路構想には、莫大な資源がつぎ込まれている。中国は、来るべき未来に備えて着々と準備している。その未来のいたるところに精神的衝撃、困難、挑戦や障害が待ち受けているだろう。だがその多くは産みの苦しみなのだ。いま、新たな世界が姿を現そうとしている。次の脅威はどこで生じるのか、宗教的過激派にはどう対処すべきか、国際法を軽視する国家にいかに対話すべきか。そして、まったく未知の人々や文化、地域との関係をいかにして築くか。私たちがそういったことを思案しているあいだにも、アジアの背骨ではネットワークやつながりが静かに紡がれている。あるいは取り戻されているというべきかもしれない。シルクロードはいま、息を吹き返そうとしている。

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