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週末読書メモ77. 『十二世紀ルネサンス』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

世界が変わるのに必要な要素の示唆がこの1冊に。


14~15世紀、ヨーロッパで起きた歴史的転換、ルネサンス。しかし、それに勝るとも劣らないくらい重要なヨーロッパの歴史的転換期が12世紀にもあった、と識者の間では言われているようです。

それが”十二世紀ルネサンス”。それに焦点をあてた1冊が本書となります。

元々、読書家としても有名な起業家・経営者、五条・アンド・カンパニーの慎泰俊さんオススメの中にあったことから手に取りました。

この方の推薦図書は過去にも参考になる本ばかりでしたが、今回もその選書の質が例に違わず素晴らしいものでした。


現在では文化的にも経済的にも先進国の中心となる西欧諸国も、中世では世界のまったくの辺境にうずくまっていた、と筆者は述べます。

そこから現代の覇権国としての兆しが生まれたのが、本書のテーマとなる12世紀ルネサンスによる文明・文化の変遷でした。

今日では、「十二世紀ルネサンス」は通常のいわゆる「ルネサンス」にもまさるともおとならい重要なヨーロッパの歴史的転換期として、識者の間で認められるようになりましたが、このことは次第に一般にも受け入れられてゆくだろうと思います。
(中略)私がとくに強調したいのは、ここで西洋世界がイスラム文明に出会ったという事実です。つまり、それまで閉ざされた地方的一文化間にすぎなかった西洋世界が、ここではじめて、アラビアの先進的な文明に接し、そこからギリシアやアラビアの進んだ学術・文化をとり入れ、自己の文明形態を一新したということです。

上記にある通り、閉鎖的であった中世の西欧ヨーロッパ世界。ローマ帝国の衰退に伴い暗黒時代とも呼ばれ、世界の中でも実は後進国でした。その中で12世紀に入り、アラビア・ギリシアの学術・文化を取り入れることにより、異なる文明が遭遇・移転し、そして、開化していきました(日本の歴史で言うと、明治時代の文明開花かそれ以上の歴史的な転換でした)。


異なる知が交わることにより、新たな世界が拓けていくことは、古今東西の事例に触れていく中で、この世界の原理の一つにように感じてなりません。

その上で、本書での最大の示唆は、異なる知が新しい種子だとすれば、花開かせるためには、その土壌も不可欠であるという考察です。

この十二世紀ルネサンスを可能にした原因として、私は内在的なものと外在的なものとの二つを挙げなければならないと思います。
まず当時の西ヨーロッパ世界に内在的な事実を挙げれば、第一に、封建制の確立ということがあります。
(中略)第二に、食糧生産の増大ということがあります。
(中略)第三には「商業の復活」ということがあります。
(中略)第四に、これと関連して「都市の勃興」ということがあります。
(中略)第五に、「大学の成立」というのも、その都市の形成に伴って十二世紀にはじめて起こるわけです。
(中略)最後に十二世紀ルネサンスの重要な背景をなすものとして、「知識人の誕生」ということがあるかと思います。

十二世紀をヨーロッパ文明史の転換点たらしめたもうひとつの側面、その外在的要因です。すなわち、十二世紀において西欧がアラビアやビザンティンの文明をとり入れ、それをわがものとすることによって、その後の西洋文明の自立的展開を可能とする知的基盤を築き上げたとい
うことです。
(中略)さきの西欧に内在的な条件というのは、十二世紀ルネサンスを生み出す土壌となったのですが、それには新しい種子が必要だったのです。その趣旨はアラビアやビザンティンからやってきたわけです。そしてヨーロッパという土壌の中に、とり入れたその外来の学術・文化が静かにそして豊かに育ち、やがて花開くわけです。そしてそれが花開いたときには、すでに西欧独自のものとなって、今後はそれが世界に拡がってゆく、という構造をとることになります。

つまり、アラビアやギリシアには、既に優れた知・文化が存在していたのにも関わらず、12世紀に至るまで西欧が取り入れられなかったのは、それを受け取ることも、育てることも出来きない状況であったからです。

その状況から、12世紀に入り、様々な事象が複合的に発生・絡み合ったことにより、新しい種子(イスラム文明)を取り入れることができ、そこから西欧文化・文明の飛躍が成されていったと。

世の中で運びるダイバーシティ(女性や若手、外国人の登用等)が、結果に結びつかないケースは枚挙に遑がありません。おそらく、その理由は新しい種子を育てる土壌に意識が向けられていないからだろう、と本書を読むと思わざるを得ません。


冒頭リンクの慎さんのコメントにもある通り、文化や文明の変遷を考えるために、極めて重要な示唆を得られる1冊でした(そして、きっと、それは文化や文明規模だけではなく、組織や個人規模でも同様に)。

新しい”種子”、そして、それを育て、花開かせるための”土壌”。自分が関わる世界を動かす・変えるためにも、その2つに向き合い続けよう。


【本の抜粋】
今日では、「十二世紀ルネサンス」は通常のいわゆる「ルネサンス」にもまさるともおとならい重要なヨーロッパの歴史的転換期として、識者の間で認められるようになりましたが、このことは次第に一般にも受け入れられてゆくだろうと思います。
(中略)私がとくに強調したいのは、ここで西洋世界がイスラム文明に出会ったという事実です。つまり、それまで閉ざされた地方的一文化間にすぎなかった西洋世界が、ここではじめて、アラビアの先進的な文明に接し、そこからギリシアやアラビアの進んだ学術・文化をとり入れ、自己の文明形態を一新したということです。

私は「十二世紀ルネサンス」をイスラムと西洋との「文明遭遇」、前者から後者への「文明移転」として捉えようとするのです。
(中略)それはちょうど我が国の幕末から明治にかけての「文明開化」とアナロジカルで、江戸時代の末期から大きな活力が我が国の内部に蓄えられていましたが、やはり西欧文明というものに出会い、これを受け入れなければ、新たな日本の文明形成はついに不可能だったでしょう。

ギリシア学術の一番いいものはローマへ入らなかったのです。ローマへは五パーセントぐらいしか行っていない。
(中略)十二世紀になって、西洋はアラビア、ビザンティンを介して、こういうギリシアの第一級の学術とはじめて出会うわけです。そこでやっと文明の仲間入りをする、と言っていいくらいのもので、それまでは西洋世界は世界文明史のまったくの辺境にうずくまっていたといえます。

この十二世紀ルネサンスを可能にした原因として、私は内在的なものと外在的なものとの二つを挙げなければならないと思います。
まず当時の西ヨーロッパ世界に内在的な事実を挙げれば、第一に、封建制の確立ということがあります。
(中略)第二に、食糧生産の増大ということがあります。
(中略)第三には「商業の復活」ということがあります。
(中略)第四に、これと関連して「都市の勃興」ということがあります。
(中略)第五に、「大学の成立」というのも、その都市の形成に伴って十二世紀にはじめて起こるわけです。
(中略)最後に十二世紀ルネサンスの重要な背景をなすものとして、「知識人の誕生」ということがあるかと思います。

十二世紀をヨーロッパ文明史の転換点たらしめたもうひとつの側面、その外在的要因です。すなわち、十二世紀において西欧がアラビアやビザンティンの文明をとり入れ、それをわがものとすることによって、その後の西洋文明の自立的展開を可能とする知的基盤を築き上げたとい
うことです。
(中略)さきの西欧に内在的な条件というのは、十二世紀ルネサンスを生み出す土壌となったのですが、それには新しい種子が必要だったのです。その趣旨はアラビアやビザンティンからやってきたわけです。そしてヨーロッパという土壌の中に、とり入れたその外来の学術・文化が静かにそして豊かに育ち、やがて花開くわけです。そしてそれが花開いたときには、すでに西欧独自のものとなって、今後はそれが世界に拡がってゆく、という構造をとることになります。

十二世紀ルネサンスを真にもたらしたものは、こうした宗教的熱狂の結果ではなく、目覚めた知的精神の営為でした。それははじめて西ヨーロッパの狭い枠を超え出て、アラビアやビザンティンの優れた学術に強烈な関心を示し、それを吸収することなくしてはヨーロッパの発展はあり得ないと考え、自らトレードやシチリアやコンスタンチノープルにおもむき、そこの進んだ学術文献を孜々として翻訳・研究することに生涯を捧げた数少ない知識人たちの努力に負うています。

十二世紀は西欧世界の大きな転換期でありまして、この西欧文明の興隆を可能にした「十二世紀ルネサンス」というものは、今までのように、単にヨーロッパ史の世界枠組みのなかにだけ視点を固定するのではなくて、広くアラビアやビザンティンの文明との交流のなかで、比較文明史的な視点から捉え直さなければなりません。むしろ西欧文明の形成を理解する上で、はじめから西欧にはなんでもありましたというふうに、西欧文明を自閉化するのは正しくないでしょう。他の文明から刺激を受け取るということは、たいへん素晴らしいことであるし、それによって自分の文明を豊かにするということは、たいへん優れたことだと思います。

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