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初めての文章

 初めて文章を書いたとき、それは僕がまだ母のひざの上にいたころだった。ボールペンでノートがぐしゃぐしゃになり、真っ黒に染まるまでびっしりと文字を並べて書いたその文章を、僕はつい最近見つけた。本当の意味での処女作だった。ある探偵が、船の上の奇妙な殺人に巻き込まれる。目が覚めたら10人が同時に死んでいた。テロ小説みたいじゃないかとさえ思った。でも、このころの僕の文章は、まだまだ洗練されてはいないとはいえ、ただ書きたいことを書いていた。それでお金を稼ぎたいとか、誰かに好かれたいなんてにおいはこれっぽっちもなかった。汚い挿絵の横に、小さくサインがしてある。初めて僕が使ったペンネームは、「江戸川龍之介」だった。

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