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サビ抜きじゃイヤだ!

連日の蒸し暑さに耐えられず、一日中エアコンのドライ機能をフル稼働させている。湿度が高すぎてそのうち空中で泳げるんじゃないかと思っていたのも束の間、今朝の東京は急に涼しくなった。

慌ててエアコンを切り、部屋の窓を開けるとひんやりとした風が入る。快適すぎて盛大な二度寝を決め込んでしまった。僕がエアコンの立場だったら、急に自然の風にうつつを抜かすようになった主人に嫉妬して、たぶん熱風とか出しまくってやると思う。もしくは夏本番にぶっ壊れてやる。こうして、電源を切ったはずのエアコンと僕との間には、依然としてドライな風が吹きすさぶ。

みなさん、少しは涼しくなっただろうか。

さて、ここからが本題。
僕は夕方から夜にかけてのスーパーをウロウロするのが好きだ。なぜなら惣菜が値引きされるから。大雨で全国的に被害が出ている中でこんなことを言うのは憚られるが、僕は台風がやってくる前日でも、スーパーで缶チューハイ3本とコロッケとシメサバだけ買って帰るような人間だ。スーパーのお惣菜は、酒のつまみとしてのポテンシャルが異常に高いと思う。僕は日々化学調味料とアミノ酸の恩恵に預かりまくっている。

その日、たまには寿司でも食べようと、スーパーのお寿司コーナーに立ち寄った。既にそこには5歳くらいの男の子と、そのお母さんと、漫画では省略してしまったが、お父さんらしき人もいた。彼らはお寿司コーナーの前を完全に占拠していたが、僕は「ちょっとすみません」と割り込んでいけるような人間ではないので、その親子が退くのをさりげなく待った。

えらく長居するなと思ったら、どうやら子供が駄々をこねているらしい。

「ワサビ入りが食べたいの!!!」

子供はそう主張している。おそらく「ワサビを食べられる男=カッコいい」という憧れがあるのだ。わかるわかる。ワサビは大人の食べ物だよね。でもたぶん君にはまだ早い。

「家にチューブのワサビあるから、ね?」

さすがは母親、我が子がワサビの刺激に耐えられないことを見越して、優しく説得する。が、その目はどう見ても「てめぇワサビ食べられないだろうが!!大人しくサビ抜きにしとけや!!」と物語っていた。彼らの激しい攻防は続く。

ちなみに父親はというと、隣の唐揚げコーナーで、呑気に「からあげうまそー」とかほざいていた。父親とはまったく、そういう生き物なのである。

結局、母親が折れたらしく、男の子はワサビ入りの寿司を手に入れた。彼は今夜、また一歩、大人の階段をのぼるのだ。

思えば、自分はいつからワサビが食べられるようになっていたのか、まったく記憶にない。ワサビといえば、友達と回転寿司に行ったとき、ふざけて大量のワサビをシャリに乗せて食べたら呼吸困難で死にかけた、くらいの記憶しかない。

ワサビだけではない。僕の場合、酒やタバコも、初めての経験がいつで、どんなものだったか、ほとんど記憶に残っていない。(ちなみに、タバコは一度吸ってみたものの、結局ハマらなかった。人に嫌がられ、見せ物みたいにガラス張りの喫煙スペースに押し込まれてまでタバコを吸う良さがわからない)

しかし、記憶にはなくても、確かにその瞬間は存在していたのである。

大人の階段は、気付かないうちに少しずつのぼっているらしい。後になって振り返ってみても、自分のいる場所からは目視できないほどの小さな出来事がほとんどだ。

この男の子だって10年も経てばきっと今日の出来事は完全に忘れてしまっているだろう。それでもこの子には「ワサビ抜きを嫌がった日」が、確かに存在しているのである。

余談だが、この漫画を描いている最中、やけに視線を感じると思っていたら、下書きで描いたブルーの自分がこちらを凝視していた。

ちょっとだけ面白かったのでインスタグラムのストーリーに上げてしまった。こんな感じでインスタも更新しているので、ぜひチェックしてみてください。@ryunosukekawazu
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