鴇野流霞

邂逅と逍遥、感傷と観照。GEKIKARAとも。

鴇野流霞

邂逅と逍遥、感傷と観照。GEKIKARAとも。

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「眺め」について歌詠みが思うこと

 初めにお伝えしておくと、これは学問ではない。王朝和歌に惹かれるひとりの歌詠みが日本語を眺めることでなされた、随想に過ぎない。  「眺める」というのは「歪める」「撓める」「やめる」などの動詞と同じ構造で「強いて~の状態にする」という意味を持つ接尾辞「める」を含む。形容詞につく場合は「薄める」「深める」「苦しめる」といったものがある。 ……というのは現代語で考えた場合の話であり、それぞれ古語では「眺む」「歪む」「やむ」「薄む」「深む」「苦しむ」となる。よってここに「強いて〈

    • 情動の受動喫煙

      小説、作家にもよるが特に歴史小説やSFやファンタジーを読んでいると、やはり登場人物が悲惨な目に遭う場合がある。暴力や陵辱というのがその最たる例で、往時にはそのような苛烈な描写に触れた際に部屋で読んでいる本をその文庫本が傷むぐらいの全力で投げ捨てたこともある。 だが、これはむしろ文章表現だからこそ、投げ捨てたり途中で置いたりすることによって、瞬間的に増大した感情を冷却できているということだろう。 これに対して、映像表現というものはその鑑賞にあたってそうもいかない部分がある。

      • ソシオニクス タイピングの設問と回答

        14,575文字あるようです。ご興味ある向きに置かれましては、お時間のあるときにお読みください。性格類型論のうち、ソシオニクスにおけるタイプが精密に炙り出せるという設問が周囲で流行っているので、回答してみました。 From Over the Sea 前提 GEKIKARA(Socionics) : Fi-IEE(NC) Quadra : Delta Double Subtype : Normalizer-Creater Normalizer : TiSi強化、Fi追

        • 準静電界の白昼夢-改行詩

          病から来る痛みに耐えている人は ろくな電気を身に纏わない その電気は他害の電気だ 他者を寄せ付けない斥力だ 俺は強力な磁石 俺は帯電しないわけにはいかない 過負荷が互いの電気を増幅し やがて衝突をもたらす 磁場の力だ 抗いがたい大きな力 俺は電磁力 俺は斥力 引力を有たないかなしい針鼠 部屋の片隅に逼迫して 煙草を燻らせる 酒杯を傾ける 幾多の匂いに塗れた髪が猫を呼び寄せる 痛みの匂いが作り上げる磁力線 見えないものばかり眺める 猫は準静電界の住人 人の磁場を巧みに嗅ぎ

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        「眺め」について歌詠みが思うこと

          傾斜する夕景——短歌連作

          あまりにも狭い選択肢の中で舗装路こんなに硬かつたかな 終はらない夕暮れ明日を繰り越して影がうしろのはうで嗤つた 置き去りの影から見える数刻ののち倒れ伏す彼のすがたが 諦めの音色、煌めく星のこゑ、消えゆく虹のあとのしづけさ 悪食の果てにほろびむ酩酊の底に埋めしあくがれあまた あかときをなほかすみたる視界さへ揺らぎていつか雪のしろたへ 鴇野 流霞

          傾斜する夕景——短歌連作

          生け贄 ──詩篇

          最前線の現代詩では福島直哉が読みやすい ジョン・コルトレーンの息吹を 夜の憂鬱に聴きながら 彷徨っている言葉の 贄となる 生きたまま煮られる時の苦しみを 生まれた事で味わっている そんな白けた感慨を明け方に差し向けて 遠く霞むしろたへの後悔のしのゝめの 死んでいった感情の在り処を 夕暮れ、やさぐれたままで墓標に問う 昼を知らない、真昼間を過ごさない 欠落した歯車は回らない 研がれないまま錆びて忘れ去られた包丁の 錆を構成する血のあかねさす火の赤銅を 巡る 静かな 水溜まり

          生け贄 ──詩篇

          視座の熱変性──詩篇

          四肢がそれぞれに欲望を持つという その十指ひとつひとつに兆した 狂おしきまでの苛立ちと 煩うばかりの疑いの雨 古びた詩集の四隅に 雑踏を溢れかえる夕日影 長いだけで取り留めのない話のような 止めどなく流れゆくせせらぎの 咲き乱れた向日葵の眩しさを君は訝しみ 夏は年ごとその速度を上げてゆく 顧みる余白を翳りと慈しんで ここはいつの夏であったか

          視座の熱変性──詩篇

          飴、のうなった。 ─短歌連作

          ひとりでに明けていくんもしんどいな吊られるまでの夜を数えて 吐くための深酒やった。それだけで夕暮れが来ることのやさしさ 伏せた思いに雲が膨らみかけとんな。もう永い日が影を濃くして 疑いの雨が止まへん。咲いてすぐに曝れゆく紫陽花が憎らしい なんやもう知らん、黙れや関わんな。月は沈みよう時がええねん 己ひとりの怖いぐらいの愚かしさ俺たぶん人やあらへんかった 背を向けてばっかり最後の悪あがきガキやさかい飴も砕いてもうた 鴇野流霞 畢

          飴、のうなった。 ─短歌連作

          飲酒文化における内向外向の差異を通した今後への想像

          ツイッター上でエニアグラムを通じて親しくなった人で、自分と同じく内向性の高い人がいる。タイプ6である彼はこれまで酒が担わされてきた社会的役割にさんざん困らされてきたらしく、酒に対していいイメージを抱いていない。 そのことは、私をどうにも悲しくさせる。 私は内向型の極致みたいな性格をしているくせに、酒がずっと好きだった。だが、酒が担わされてきた社会的な役割については、ほとんど無視を決め込んできた。私はあくまで個人として酒を好むのであり、趣味や信念や感性の合わない人々と無理に

          飲酒文化における内向外向の差異を通した今後への想像

          White out

          食べるものが何もない。日差しを浴びるときにいつも座っていたあのクッションの上に注がれていた、どの季節の陽射しより暖かい視線がなくなってから何度夜を過ごしたのだろう。部屋にこもっていても仕方がないので、窓から外に出てみた。 風が冷たかった。何も見えないし、何も聴こえない。……見ているものは色褪せ、聴いている音はぼんやりとしている。そこに心が見当たらない。だから何も見えないし、聴こえない。 いつかもらった魚が食べたいと思った。あの柔らかくて、脂の載った魚を。あれをくれるときに

          思い返すこと─4w5の個性を持つ者として─

          以下は心理学的な性格類型をある程度知っている方向けに書かれていますが、知らなくても大意は取れるように配慮しています。暇潰しにどうぞ。 僕の父親は体育会系を地で行くESTJで確かにいわゆる「頑固者」で「強硬派」かつ「神経質」だが、かつてバイクによるツーリングを好んだりスキーが異様に得意だったり、かなり最近まで素潜りによる銛突き漁(筆者としてはこれを推奨しない)を行っていたりと、体を使うこととそれを楽しむことに関しては無類の才覚を誇っていた。 8w7だからか駄洒落を初めとして

          思い返すこと─4w5の個性を持つ者として─

          神の手

           神の手と称されたクラウス・マクレイン。かつて彼は凄まじく美に長けた絵を書くことで有名だった。しかし精神を擦り減らして描かれる絵画の数々は、緩やかに彼から視力を奪っていった。やがて失明した彼は、それから一幅の作品も世に出していない。何より彼を悩ませたのは、新しく本を読むことができないということだった。着想の源泉はいつも書籍だった。そこで、彼はある窮余の一策を思いつく。  目が見えなくなった彼には使用人がいた。使用人はかねてから彼によく尽くしてくれていたので、信任が篤かった。あ

          改行詩「静寂の色彩」

          重心を詠歌に置いていながら、ときおり詩を書きたい気分になる。昨日即興で手書きしたものをいくらか推敲したこの一篇は、ここ一二か月の長期的な感情を反映していると推察する。ご笑覧ください。 静寂の色彩 昼食のだし巻き玉子の 思ってもみない美味しくなさに ひと日はたやすく闌けてゆく 六月の雨はしたたかに降り 辟易している紫陽花の群れ どこまでも曝れていき どこまでも褪せていく 境界を風に晒して綻ぶ萼を 遠く金木犀の香りが 縁どる視ている慰めている 覚めそうで覚めない夢のあとさき

          改行詩「静寂の色彩」

          一音句跨りとその効用

          保たれたソーシャルディスタンスのあひに音なき溜め息のゆふまぐれ という歌を詠んだ。  またぞろ一音句跨がりムーヴメントが来てしまったようで。用いたい技法は周期的に変化する傾向がある。他人様の実作研究用に解説しておくと、保たれた/ソーシャルディスタン/スのあひに/音なき溜めい/きのゆふまぐれ──ということで、二句から三句、四句から結句にかけて言葉が一音だけ後ろの句に喰い込んでいます。 これを私はごく個人的に一音句跨がりと呼んでいます。なぜそう呼ぶのか。 従来、戦後前衛短

          一音句跨りとその効用

          未来 2018.3 No.794 紀野欄より私選数首と筆者掲載歌

          雨、霰、霙へと変わりまた雨に師走の空と人の心と/林 美奈 ゆったりと風に乗りいる鳶の目の狙いさだまるある日ある時/萬宮千鶴子 日の暮れのはやばやとくる路地裏の風のくらさをのがれんとする/同上 降りてくる速度に霧雨を雪といへばにはかに冬の窓辺は/辺見 丹 わが明日の身に降りかかるかなしみを識るを識らざるままに生きゐて/井上 駿 わが指の傷つくことを怖れてはうまく林檎を剝けないでゐる/同上 冬の皿洗ひのみづさへ温ければなんとたやすきわれが仕合はせ/同上 朝明けのここ

          未来 2018.3 No.794 紀野欄より私選数首と筆者掲載歌

          未来 2018.2 No.793 紀野欄より私選数首と筆者掲載歌

          光れるは大和国原仏たちほろほろ照らふ紅葉黄葉に/関 旬子 ※紅葉黄葉(モミヂモミヂ) ひとまずは林と思う構内の芝生とクスノキのあるところ/田島千捺 ゆたんぽのような子猫はわれのこと床暖房と思っているな/佐藤真美 名乗るときに名字を告げないひとがゐてさうだよなここを出ればそれきり/辺見 丹 描きあぐねる絵筆のごとく揺れる火がしなかつたことばかりを見せる/同上 星々も太陽光に輝くと聞けばゆたけき思いに眠る/萬宮千鶴子 時にルビは(衣装に漢字を纏わせた)気分と岡井氏 孫

          未来 2018.2 No.793 紀野欄より私選数首と筆者掲載歌