未来 2018.3 No.794 紀野欄より私選数首と筆者掲載歌

雨、霰、霙へと変わりまた雨に師走の空と人の心と/林 美奈

ゆったりと風に乗りいる鳶の目の狙いさだまるある日ある時/萬宮千鶴子

日の暮れのはやばやとくる路地裏の風のくらさをのがれんとする/同上

降りてくる速度に霧雨を雪といへばにはかに冬の窓辺は/辺見 丹

わが明日の身に降りかかるかなしみを識るを識らざるままに生きゐて/井上 駿

わが指の傷つくことを怖れてはうまく林檎を剝けないでゐる/同上

冬の皿洗ひのみづさへ温ければなんとたやすきわれが仕合はせ/同上

朝明けのこころ開けばすいすいと光/熱/水わが身に巡る/同上

さざなみに身をゆだねたりする さむい ゆるい光が途切れはじめる/唯織 明

電車が急に止まる 吊革がたくさんゆれている 白い森/同上


─筆者掲載歌─

誌面上ではタイトルはつけませんでしたが、実質上前号の続きです。

  雨止みの刹那 折り返し

あかねさすうすむらさきの錠剤を服みて明日への麻酔となせり ※服(の)む

気がかりも心残りも一条に縫ひ留められて灼かるるごとし ※一条(ひとすぢ)

フィブリンがそこに根を張る常緑の木はわがうちに向けて伸びゆく

軋轢と齟齬にまみれて過ごす日は梨ひとつ朽ちてゆくかのやうに

色褪せた葉の落つる見ゆ 足首は鉄のごとく動かずなりぬ ※鉄(まがね)

一篇の詩をくるぶしが生きてゐる。遠葬、何を去らしめたのか。

野晒しの蜘蛛の古巣に露の玉しばらく月の夜を留まれ

夢に見しヒエログリフはいにしへの歌のごとしも懐かしきかも

田上純弥 #短歌 #tanka #和歌

※10首提出のうち8首掲載。着々と増えてきている。紀野さんによる選歌後記で一首めの結句〝麻酔となせり〟はちょっと熟さない、とのご指摘をいただきました。たしかにあの感情に存続の助動詞はそぐわない。失策でした。落とされた歌については、納得しかない。




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