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マッドゴッド考

昨日の夜、ふと思い立って仕事終わりに『マッドゴッド』という映画を観てきた。久しぶりにさっぱりわけが分からない映画を観たなという感じだったが、観ながらいろいろなことを考えたので、断片的な感想になりそうだが残しておこうと思う。※本文中にはネタバレを含みます。

・監督は『スターウォーズ』や『ロボコップ』などでストップモーションによる特撮を担当したフィル・ティペットという人。しかし本来特撮を担当する予定だった『ジュラシックパーク』でCGアニメーションが採用されることとなって降板。この『マッドゴッド』も当時から構想があったそうだが、もうコマ撮りなんて時代遅れなんだ……とお蔵入りになっていた企画だったらしい。結局『ジュラシックパーク』ではCGだけでは恐竜の個性を出せず、ティペット氏は再び招聘されてコマ撮りのようにCGの恐竜の動きを一コマずつ入力する装置を開発、アカデミー賞の視覚効果賞を受賞している。

・セリフも説明もほぼないのでどういう話だったかと言われると説明出来ない部分はあるが、主人公が地下にある不思議な暗黒世界を巡る……というお話。監督自身が実際に見た夢からも大いにインスパイアされたらしい。この暗黒世界は何だったのだろう?と考えると、これはCGに席巻され、ティペット氏の愛したストップモーションの居場所がなくなってしまった現代の映画界だったのではないかと思う。命の通っていない、いびつでクソのような作品が量産され無為に消費されてゆく世界。最初の男はその世界の深奥に時限爆弾を仕掛けて爆破しようとするが、何故か時計の針は止まって起爆しない。クソみたいな映画界を爆破して壊してやりたいという気持ちはあるが、それでも彼はこのクソみたいな世界を愛しているのかもしれない。彼は囚われ、腹を裂かれ内臓を引っ掻き回される。それは金や宝石を産み、やがて体の奥からは奇妙な生き物が産声を上げる。丁寧に取り上げられるそれは、おそらく氏の作品なのだろう。作品からは錬金術師の手によってキラキラ輝く黄金の砂が生まれ、それは炎に投じられるとビッグバンが起きて新しい宇宙が創造される。クソみたいな世界で、血と汚物にまみれて苦しみながらも作品を生み出すこと。そしてその作品がまた新しい宇宙を創造してゆくこと。なんかそんなようなことを描いた作品だったのかなと思った。

・人形アニメーションというものは、この映画のように人に似ているが人にあらざるものを描くのに適した手法なのかもしれない。人形(にんぎょう)ではなく人形(ヒトガタ)と読むべき人形たちが織り成す映画がいくつかある。デイブ・ボースウィックのコマ撮り大作『親指トムの奇妙な冒険』。『ストリート・オブ・クロコダイル』や『失われた解剖模型のリハーサル』に代表されるブラザーズ・クエイのカルト的な短編映画群。バリー・パーヴスの短編『スクリーン・プレイ』は日本の人形浄瑠璃に着想を得た作品であるが、これもあくまで人形であることが主題になっていたように思う。こういった作品に登場する人形はどこかいびつで、壊れやすく、生々しさと作り物感が同居し、時に人間のパロディのように滑稽で憐れな存在となる。それはおそらく人形でしか表現し得ないものなのだろう。

・主人公が何かのきっかけで不思議な世界に迷い込み、様々な困難や不思議な出来事に向き合いながらも旅を続け、最終的に不思議な世界の真理に到達したり何らかの目標を達成したりする……というのも、よくあるプロットのひとつとして確立しているやつだなと思う。名前を付けるならばワンダーランドもの、とでも言うべきだろうか。おそらく一番有名な作品は『不思議の国のアリス』なのだろうが、例えば『千と千尋の神隠し』なんかもこれに当たるだろう。比較的アニメーションで描きやすいジャンルでもある。こういう作品の肝は、いかにそのワンダーランドが不思議で奇想天外で魅力的かにあるだろう。ダークなのかメルヘンなのか、ファンタジーなのかサイバーパンクなのか、地獄なのか天国なのか。ワンダーランドの設定にもいくつかの法則性があるような気がする。

・前述の項と少し被るけれど、まるっと世界を作る、みたいなことが出来るのが、僕がアニメーションが好きな理由のひとつなのかもしれない。箱庭のように自分の世界を創造出来る面白さ、受け取り手としてそれを観ることが出来る面白さ。とりわけこういう不思議な世界、閉じた世界を描いた作品は作り手の世界観が色濃く反映されていて見応えがある。この世界はどういう世界なんだろうとか、この世界はどういうルールで成り立っているんだろうとか、そんなことを考えながら観る作品は割と好きなのかもしれない。

と、支離滅裂に長々と感想を書き連ねるなどしてみました。『マッドゴッド』、万人に勧められるような映画では全然ないですが、個人的にはとても大きく心や頭が動いた映画でありました。

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