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恋の終わり

今日を以て僕の恋は終わった。職場で少し気になっていたユキちゃん、飲みか食事でもどうかなと誘って丁寧に断られた。口調や態度はあくまでも丁寧だったが、その端々に絶対に脈なしですよという心の壁と、生理的に無理ですという拒絶が見て取れた。これで僕の恋は終わりだ。ユキちゃんに対してだけじゃない。もう恋することをやめる。そう誓った。

僕は今年45歳になる。若い頃は夢を追って役者なんぞをやっていた。夢を諦めて就職して7年。言うまでもなくまだ独身だ。自分が食う分には困らないが、大した貯金があるわけでもなし、役者時代に作った借金をようやく返し終えたくらいだ。頭はすっかりハゲ上がり、ガリガリだった身体には余計な肉が付き、肌もくすんできた。コミュニケーション能力は人より少しあるかもしれないし、仲良くしてくれる女性もいないわけではない。だがそれはあくまで友人として、仕事仲間としてのものだ。こんな金もない中年男の恋愛感情を受け取ってくれる女性なんかいない。分をわきまえて現実を受け入れることにした。それだけのことだ。

思えばここ数年、誰かに恋をしてはつらい思いをすることばかりだった。仕事の同僚、旧い役者仲間、アプリやSNSで知り合った相手。好きになって、追いかけて、たまには少しうまくいったりもして、でもやっぱり皆僕から離れて行った。恋する相手に愛してもらえぬのはつらいことだ。そんなことに時間を使うことが、頭のリソースを割くことが馬鹿馬鹿しくなった。いい歳して何が恋だ!そう思うとふっと心が軽くなるのを感じた。

女性と話したいならば普通に職場の同僚や友人がいる。ちやほやして欲しいなら夜のお店にでも行けばいい。セックスだって風俗で充分だ。デートだと言ってどこかに遊びに行って酒を飲んでホテルに行くくらいなら、風俗に行く方がよっぽど安上がりでコスパもいいじゃないか。休日の時間を持て余すなら趣味に使えばいい。映画館に行く、読書をする、たまに行っていた登山に時間もお金も使うようにすればいい。女の子に使っていたお金でモンベルのウェアを買おう。恋なんかなくったって、人生はこんなにも充実しているじゃないか。恋という荷物を降ろしたことで、僕は視界が広がるのを感じていた。強がりじゃない。本当にそう思った。

思い返せば恋多き人生だった。我が人生の第1章、恋愛編はここで一区切り。ここから新たなるチャプターが幕を開ける。もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対……なんて流行り歌があった。当時はいい歌詞だなぁと思って聴いていたものだが、あの時得た共感は若さゆえなのだ。もう恋なんてしないよ絶対、と僕は歌おう。ネガティブな諦めではなく、これからの人生の賛歌として!僕はウキウキと、次の休みの風俗の予約をした。

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