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【ショートコント】ペットショップ

〔登場人物〕
店員:ペットショップの店員
客:ペットショップの客


客:犬が欲しいんですけど。
店員:ワンちゃんをご希望ですね。どのような犬種がいいとか、ありますか?
客:え? 初めに犬種を聞くんですか?
店員:あ、もしかして、もう気に入った子、いました?
客:は? 見た目で何がわかるっていうんですか。
店員:あ……ごめんなさい。ええと、何か選ぶ基準とか、あったりします?
客:基準? もしかして、目的を聞いてます?
店員:え?
客:(おもむろに声を張って)だから、犬を飼う目的を聞いてるんですか、って言ってるんですよ!
店員:(怯えながら)そ、そうです……。
客:分かりづらい聞き方しやがって。
店員:(敢えて気にしないようにしながら)ええと……どのような目的で犬をお飼いになりたいんですか?
客:スパイ。
店員:え?
客:(自分に酔うように)スパイですよ、スパイ。
店員:ス、スパイ? それはどういう意味で……?
客:(話を聞いていない)そうだなあ……。とりあえず、鼻が利くやつがいい。それも、とびっきり。
店員:犬は、どの子も全般的に鼻が利きますが。
客:(聞いてない)あとは……忠実! 主人を裏切らない。それが絶対条件ですね。
店員:まあ、よっぽどのことがなければ、裏切られることはないかと思いますが、絶対かと言われると……。
客:それじゃ困るんですよ。
店員:え、ええと、基本的には大丈夫です。あまり、飼い犬に裏切られたという話は聞きませんので。
客:証明してください。
店員:え?
客:犬が、私に、いや、命令に忠実であるということを、私に証明してください。
店員:いや、未来のことは証明できませんよ。(恐る恐る)お客様が……どのような扱いをされるかも分かりませんし。
客:私のことが信じられないと。
店員:そういうわけではありませんが、何が起きるかは、分かりませんし。
客:ということは、私には犬は売れない、と。
店員:いやいやいや。そういうことを言っているわけではないです。
客:私が犬をどう扱うか分からないというのに、犬を売ると?
店員:も、もちろんです。きっと、可愛がっていただけると信じているので。
客:……素晴らしい。あなたは、信頼というものの本質を理解していらっしゃる!
店員:どういうことですか。
客:信頼は、無償の愛と似ています。裏切られる可能性を感じながら、それでも、すべてを相手に委ねる。
店員:はあ。
客:決めました。あなたがいい。
店員:え?
客:あなたこそ、私の犬にふさわしい!
店員:お断りだよ!

Photo by Fredrik Öhlander on Unsplash

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