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創作とは、自分を表現することに非ず

花見には良い1日だった。しかし、僕は花見には行っていない。

さて、前回書き損なった話を書いておこう。創作物の作者は、どれ位その創作物に想いを込めるべきか、または、どれ位あからさまに自分の主義主張を出すべきなのか、という話である。

僕が知っているある団体の舞台作品。褒める人は結構褒める。演者も、結構作品に入れ込んで作っている。僕も見たことがある。が、正直僕には無理だった。「お話が面白い」という人もいるが、僕にはそうは思えなかった。というより、そこにあるのは「物語」ではなく、「作者の主張」そのものだったからである。そして僕には、(その主張そのものに賛同できるか否かは別として)それが物凄く鼻についた。知り合いが出演していたのであまり言いたくはないが、本当に苦痛な時間だった。


例えば、シェイクスピアの芝居を見て、シェイクスピア本人の主義主張が現れている、と思う人はほぼいないだろう。シェイクスピアは人生を舞台(芝居)に、実人生を生きる人間を役者に準える比喩をよく使っている。そこには確かに、シェイクスピアのある種の世界観が投影されているだろう。だからといって、例えば「ロミオとジュリエット」のどこに、シェイクスピア自身の主義主張が現れているというのだろう。シェイクスピアは、何を観客に訴えたくて「ハムレット」を書いたというのだろう。これらの問いが全くナンセンスであることは論を待たない。

それと同じように、僕自身も、自分の主義主張をストレートに作品に反映させたりはしない。ずっと昔、まだ20代で脚本を書き始めた頃には、僕も随分「書くものが政治的だ(政治的な主張・思想が前面に出ている)」と批判されたものだ。当時はどういうことかあまり分かっていなかったが、ある時期を境に、僕の脚本から政治的な要素が消えた。すると、それなりに好評を博すようになった。

ああ、そうか、と僕は気付いた。それまでの僕の作品は、そういうつもりはなかったのだが、押し付けがましかったのだ。自分の主張を真正面からぶつけて、観客に賛同して欲しかったのである。観客は僕のそんな作品に、アジテーションの匂いを嗅ぎ取った。自分の考えと違う主張を目の前で展開され、観客という立場上、その場では反論することも許されない。そんな観劇体験が、楽しいわけがない。

「ハムレット」は、シェイクスピア自身の何らかの主義主張を展開させるために、ハムレットを動かし、喋らせているわけではない。物語が自ら駆動し、ハムレットはそれに突き動かされて、様々な行動をとり、あの長い台詞を高速度で喋る。ハムレットは、自ら物語を生きる。それを見て、観客が何かを感じるのである。ハムレットの長い台詞は、シェイクスピア自身の主張を伝えるための演説ではない。だから面白い。他の戯曲も同様だ。


僕が見ていて苦痛だと感じた舞台の作者は、いっては何だが、普段の言動からして独善的な香りのする人だった。その独善性が物語の隅々まで、毒素のように行き渡っていた。「この主張に反論しようなんて許さないよ!」という強い意志が感じられた。そして、作品の登場人物は、みんな作者の主義主張にがんじがらめにされ、ある時は操り人形のように動いた。だから、見ていて苦痛だった。誰が出ていようと、もう二度と見るまいと思った。

その後、その人は健康を害したため、今後その団体が、同じような形式で公演を行えるのかどうかは微妙になった。そのこと自体は気の毒であり、不運なことと思いもするが、それでもやはりその人の作品を嫌悪する気持ちに変わりはない。

そして、それを他山の石としなくてはならないと強く思っている。例えば、昨年12月上演の「シン・赤ずきん〜童話は童話〜」。ご覧になった方もいると思うが、この作品中に、僕の主義主張が前面に出たシーンや台詞はあっただろうか。


もし僕自身の何かが顔を出す部分があるとすれば、それは「物事(世界)の切り取り方」だと思う。「赤ずきん」という誰もが知っている童話を、どのように料理したか。その手つきの中に、僕が少しだけ顔を出しているのは事実だ。ただ、例えば、「このシーン(や台詞)に絶対に共感して欲しい!」と強く望み、情熱を込めて創ったシーンや台詞、キャラクターは、実はない。そういう、謂わばスケベ心はすぐに見抜かれてしまう。押し付けがましいのはなおのこと忌避される。

結局、創作する場合、最もいい姿勢は、自分が「器」になるということではないだろうか。作者である自分が、作品を全て支配できているなどという思い上がりは捨てることだ。それでこそ、多くの人に受け入れられる、深い作品が作られる。

創作とは、自分を表現することではない。自分が作品の媒体になることである。

ちょっとアニミズムが入っただろうか。何にせよ、見ている人に作者の顔が思い浮かんでしまうような作品は、創作としては2流、3流であると心得るべきであろう。

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