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自然の手によって切り取られた世界の痕跡 サム・フォールズの哲学


自然の煌めきと滅びのアート

夜の雨、朝の霧(秋)、2020


壊れることは生まれることだ。絶えまない消滅と創造のくりかえしの世界に私たちは生きている。

サム・フォールズは光や風、草花などの自然の手を借りてアート作品をつくりだす。彼のつくる作品は紛れもない人工物でありながら、そのなかに数多の生命を宿しているようにみえる。サム・フォールズは作品をとおして観る者に何を伝えようとしているのだろうか。

サム・フォールズ作品の考察

サム・フォールズ|Sam Falls


サム・フォールズは1984年にアメリカ・サンディエゴで生まれ、現在はロサンゼルスを拠点に活動をしている現代美術家、彫刻家、写真家、インスタレーションアーティストである。

サム・フォールズの作風は多岐にわたるが、この記事では彼の代表的なスタイルのひとつである、大型のキャンバスに花や樹木などのシルエットを豊かな色彩で描いた作品群に焦点を絞って考察していきたい。

これらの作品群はまず、その制作過程が非常にユニークだ。

はじめに地面に寝かせたキャンバスのうえに花やシダ、樹木などを染料と一緒に直接おく。それから陽の光や風、雨などの自然にさらし、経年劣化による色彩や質感の変化を獲得する。そして、そのあと草花を取り除くことによって、植物のシルエットのみをキャンバスに浮かび上がらせるという技法をとっているのである。

こうして創り出された作品は、花や樹木の白い影のような形態や、光や風によって色褪せた色彩など、様々な痕跡が複雑に絡み合い独自の美しさを放つことになる。

母なる自然の息子、2020-21


また、これらの作品群はありのままの自然を用いることでこれ以上ないほど具象的な要素をはらんでいながら、同時に自然のなすがままに創造されることでこれ以上ないほど抽象的な要素もはらんでいる。具象と抽象という相反する表現がひとつの世界で完全に溶け合っているのだ。

この具象と抽象の融合は、自然がひとつの形態や色彩に囚われることなく常に変化し続けていることを表象しているようにみえる。

さらにこれらの作品は芸術という表現を媒介として人間と自然との対話をうながす。自然と対話するなかで観る者は自身も自然の一部であることに気づかされ、自然へと同化していく感覚を覚えずにはいられないだろう。

花や樹木の形態や光や風による色彩の刹那的なきらめき、具象と抽象が混然一体となった世界、自身と自然とが同化する感覚から、観る者は時の移ろいや自然の儚さを感じとることになる。

崩壊と構築の指し示すもの

カリフォルニア州植物相 (国有林の結露壁)、 2017 年展示風景: Hammer Projects: Sam Falls、
ハマー美術館、ロサンゼルス、2017


「私たちは存在することで作品を変え、存在することで作品が私たちを変える。私たちは、まるで毎瞬のように崩壊と構築を繰り返す。」とサム・フォールズは語っている。

サム・フォールズは芸術に自然を介入させることで、時間という概念を問いただし、観る者に深い体験と洞察をあたえる稀有な作家だといえるだろう。

※タイトル画像:「展示風景: Nature Is The New Minimalism
MART、Galleria Civica、トレント、イタリア、2018」

最後まで読んでいただきまして、本当にありがとうございました!