見出し画像

ゴッホ『星月夜』にみる愛への希求

「考えれば考えるほど、人を愛すること以上に芸術的なものはないということに気づく」

これは「炎の画家」として知られるゴッホの遺した言葉である。

ゴッホはその壮絶な半生からエキセントリックな側面ばかりが注目されがちな画家だ。だが彼が生涯を通じて家庭的な愛を追い求め続けた「愛の画家」であったことはあまり知られていないのではないだろうか。


ゴッホについて


フィンセント・ファン・ゴッホ(1893-1890)は、19世紀後半オランダのポスト印象主義の画家である。鮮烈な色彩と大胆な筆づかいにより、苦悩と不安に満ちた魂を表出した作風で知られている。

父親を始め家族との確執から、ゴッホは常に幸せな家庭に憧れを抱いていた。しかし彼の人生は悲恋の連続であり、幸福な家庭を得るという願いは叶えられることなくその生涯を終えることになる。それゆえにゴッホの作品には、満たされぬ愛への飢餓が色濃く反映している。

ゴッホが画家を志したのは27歳になってからである。自分の左耳を削ぎ落とすなど、狂気に苛まれながら制作活動を行ってきた彼は、1890年7月、自らピストルでその生涯に幕を閉じた。享年37歳。ゴッホが画家として活動した時期は、わずか10年たらずであった。

星月夜

『星月夜』(1889年)

代表作『星月夜』

サン=レミの療養院から見える夜明け前の風景を描いた『星月夜』は、ゴッホ後期を象徴する絵画としてよく知られている。

実のところ、この作品は現実の風景をそのまま描いたものではなく、ゴッホの記憶の断片をコラージュした想像による産物だ。そのため『星月夜』は、多くの評論家により様々な解釈がなされている。その中でも石坂千春氏(大阪市立科学館/中之島科学研究所)による評価はとりわけ興味深く、ゴッホの愛への執着に迫っており、特筆すべきものがある。

糸杉の右側に位置する金星はギリシャ神話の美と愛の女神アフロディテの象徴であり、細い月は貞潔と狩猟の女神アルテミスの象徴である。このことから、この作品でゴッホが描きたかったのは女神であるという説を石坂氏は唱えた。星の周囲をどんよりと渦巻く空が、愛を求めて止まないゴッホの苦悩の表出と考えると、この説は実に腑に落ちる解釈といえる。

療養所でモデルとなってくれる女性もいない環境で、生涯に渡り愛を求めたゴッホが、自然の中に女神の象徴を見出すより他になかったのは必然だったといえるだろう。
書簡によればこの時期、「希望は星にある」とゴッホは弟のテオに手紙を送っている。

最後に

最近のオランダの研究機関によるとゴッホは、思慮深く、慎ましい性格の持ち主だったということが明らかにされた。

ゴッホも普通の一人の人間として、愛を求めてやまなかったのであろう。愛を望む人間の苦悩が深く鮮やかに描き出されているからこそ、時代を超えてゴッホの絵画は愛され続けているのではないだろうか。


※ この記事は以前に依頼されて作成したものですが、諸事情により公開されなかったため加筆修正しここに掲載しました。


最後まで読んでいただきまして、本当にありがとうございました!