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見るのが100倍オモロくなる西洋美術史PART-13【北方ルネサンス】

北方ルネサンスとは1400年~1500年代にかけて、北ヨーロッパで開花した美術様式のことです。より広い意味ではイタリア以外のヨーロッパのルネサンス運動全体を指します。

まず注目したい点は、1400年代のネーデルラント(現在のオランダ、ベルギーなど)ではイタリアより先行して油彩画の技法が発達し、細密な描写を実現していたことです。これに加えて作品にリアリティを求めたその土地の人々の志向もあいまって、絵画は異様なほど緻密さを増し写実性を高めていきました。

こうしたなかで1450年代以降になると、イタリア内にとどまっていたルネサンス運動は全ヨーロッパへ波及していきます。これにより「ネーデルラント・ルネサンス」、「フランス・ルネサンス」、「ドイツ・ルネサンス」など各国でルネサンスの影響を受けた芸術運動が展開されていきました。

宗教改革の影響

マルティン・ルター(1483 - 1546)ドイツの神学者、教授、聖職者、作曲家。


北方ルネサンスは1500年代の宗教改革と深く結びついています。

1400年~1500年代のヨーロッパは戦乱や疫病、飢餓などに見舞われ世紀末的不安が広まっていました。このような状況の中、ルターが腐敗した教会を批判し宗教改革を行います。宗教改革は神中心の世界観による非人間的重圧から人々を開放し、イタリア的な人間性の開放、つまりヒューマニズムの観点を北方にもたらします。またヒューマニズムにより独自の個人様式を生み出していったのです。

以下では北方ルネサンスでも特に重要と思われる、ネーデルラントとドイツの動向と代表的な画家について触れていきます。

ネーデルラント・ルネサンス

緻密で写実的な描写は油絵具によって可能となりました。この油絵具を発明したのは、ネーデルラントの画家ファン・エイクと言われています。しかし実際はそれ以前から、ネーデルラント南東部の伯爵領であるフランドルでは油絵具は使用されていたようです。

またこの時代ネーデルランドでは、ルネサンス絵画を積極的に取り入れようとしたロマニストと呼ばれる画家や、地元密着型の天才画家が誕生します。

ネーデルラントを代表する画家

ロベルト・カンピン(1375-1444)

ネーデルラント絵画の創始者として「フレマールの画家」の異名をもつ画家です。ルネサンスを代表する数点の祭壇画が所蔵されていたとされるフレマール修道院に、ロベルトの作品もあったといわれることにちなんでこのように呼ばれています。

『メロードの祭壇画』/1425-1430

『メローデ祭壇画』ではフランドル中流階級風のマリアの部屋で本を読んでいるマリアに、大天使ガブリエルが声をかける構図となっています。

ヤン・ファン・エイク(1395-1441)

『男性の肖像(自画像?)』/ヤン・ファン・エイク  (1433)

油彩画を確立し極度の細密描写による写実的絵画を板絵に描いた画家です。徹底的に主観を排除し非の打ちどころのない細密描写にこだわりぬきました。ファン・エイクは油彩画において革命的な技術革新を行った人物として、生前より北ヨーロッパの巨匠として名をはせていたといわれています。

『アルノルフィーニ夫妻像』(1434年)

『アルノルフィーニ夫妻像』はファン・エイクの作品でも、最も有名な絵画です。輝くような色彩と透明感はもはや感情が一切排され、時を超越した存在として描かれています。

ヒエロニムス・ボス(1450-1516)

ヒエロニムス・ボスと推察されている肖像(1560年頃)

ボスは同時期の画家たちの作風とは一線を画した独自の世界観を確立しました。

人間の本性的な悪徳と世界への厭世観を幻想的で奇怪な画風で表現したボスの作品群は、今もなお唯一無二の存在感を放っています。ボスはブリューゲルを始めとした後世の画家、そして1924年に始まったシュルレアリスム運動にも大きな影響をあたえました。

『快楽の園』(1503-1504)

ドイツ・ルネサンス

1400年代においてドイツはネーデルラントほどの革新性はまだ見られませんでした。

『奇跡の漁り』コントラート・ヴィッツ/1444頃

しかしコンラート・ヴィッツの作品『奇跡の漁り』では、その背景にジュネーブ湖畔の実景が描かれ新たな写実性が生み出されています。また画家にして版画家であるショーンガウアーにより、銅版画の技法が飛躍的に高められました。

ドイツ・ルネサンスを代表する画家

アルブレヒト・デューラー(1471-1528)

自画像(1500)

デューラーはドイツの画家であり絵画のみならず、版画で大きな功績を残した人物です。数学者でもあったデューラーは、ヒューマニズムの知識やラファエロらとの交流をつうじて、北方ルネサンスの発展の礎を築きました。デューラーは西洋において、風景画と自画像を始めて描いた画家と言われる、美術史上最も重要な作家の一人です。その偏執狂的なまでの細密描写と繊細な色づかいによって、圧倒的な写実性を実現しています。

グリューネヴァルト(1470~1528)

グリューネヴァルトを描いたとされる作者不詳の肖像画

グリューネヴァルトは明るく輝くような色彩をまとった幻想性と残酷で痛々しいまでの現実性が、奇妙に同居した独自の絵画世界を創造しました。

『イーゼンハイム祭壇画』〈第1面〉(1509-1515)

クラナッハ(1472~1553)

77歳のときの自画像

クラナッハは怪しげな妖艶さと人工的な冷たさを感じさせる女性の裸体画を多数残しました。クラナッハの絵画には北方独特のロマンティシズムを観ることができます。

『ヴィーナス』1532

ハンス・ホルバイン(1547~1543)

ホルバインは1500年代の国際的宮廷肖像画様式を代表する画家であり、肖像画以外にも木版画や装丁でも才能を発揮した作家です。代表作すべての人の骸骨『死の舞踏』の木版画でも有名で、自らもペストで命を落としました。

『大使たち』(1533)

聖書の世界を現実世界で描く

イタリア・ルネサンスは教皇の政治的な戦略を背景に作品が創られていました。それに対して北方ルネサンスは宗教改革の精神を色濃く受け継いています。

特に高度な油彩画技法による細密描写を駆使して聖書の世界を日常世界に落とし込んだところこそ、北方ルネサンス最大の特徴といえるでしょう。


※参考文献:西洋美術史(美術出版ライブラリー 歴史編)/鑑賞のための西洋美術史入門(リトルキュレーターシリーズ)/Wikipedia

※サムネイルの画像はアルブレヒト・デューラー作『祈る手』(1508)



最後まで読んでいただきまして、本当にありがとうございました!