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若き主任の挑戦を応援します

こちらの記事を読んでいただき、ありがとうございました。
まだ読んでいない方は、こちらを先に読んでから以下の記事を読むことをおすすめします。

1.はじめに

 主任という立場になった方で、難しさを感じている方はいらっしゃいますか?学校でも会社でも、いわゆるリーダーは必ず存在します。学校現場で言えば、校長先生。会社で言えば社長。ですが、これに限りません。
 社長以外にも、会長、顧問、課長、部長などがそれです。私は小学校で働いているので、校長以外にも、教頭、主幹、教務主任、学年主任、分掌部長、そしてクラス担任がリーダーにあたります。今回は学校の教師目線で書いていきます。
 20台後半から、少しずつ職場のリーダーとして奮闘する方もいるのではないでしょうか?早ければ学年主任やICT主任などを任される方もいます。私の知り合いの先生は、25歳にしてICT推進の命を受けたそうです。その先生に話を聞くと、

  • この職員室の雰囲気で、推進できるのか不安

  • 先輩たちがあまり使おうという気持ちがないように感じられる

とのことで、非常に困っておられるようでした。私としても同様の難しさを4月から感じていたので、よくわかります。
 ですが、幸いにもなんとかがんばれています。最初は逆風に遭いながらも、少しずつ先生方が前向きにICT活用に励んでいこうとする姿勢に、もっと応えたいという私の気持ちが強くなりました。お役に立てたことも、少しずつ増えてきて、やりがいと手応えを感じることができるようになりました。
 今回の投稿では、主任という立場で苦労されている方、これからどのような方法で推進していけばいいかのヒントを記します。テーマはICT活用ですが、ほかの場合でも当てはまることが多いと思います。あくまでも、ひとつの在り方として捉えていただければと思います。状況によって、うまくいかないこともあるとは思いますが、その方に合った推進をしていけば大丈夫だと思います。

2.ミニ精鋭を組む

 ICTを活用した授業で操作方法を教えるとします。
T:いいかい、まずね青いボタンをクリックするよ。
C:え、どこ?
C:先生~変になった!
T:だから、青のボタンだってばっ…!
T:もう一回言うよ?青いボタン!
C:わからない~!(´;ω;`) 
 こんな場面に幾度となく遭遇されてきた先生は多いのではないでしょうか?なかには、これにうんざりしてICT活用を諦めた方もいると聞きます。 
 この現象、大人でも起きます。泣く大人はいませんが、わからずにイライラする先生、困惑する先生、何度説明しても理解してもらえない先生もいます。説明している側にも、焦りが生じますね。
 数の勝負です。個でダメなら、集団を活用してみましょう。私は勝手に「ミニ精鋭」と言っています。事前に次回の研修で行う操作方法を、ネタバレします。私は研修部所属なので、研修部に刷り込んでいることが多いです。精鋭1名で5人くらい見てもらいます。これで、細やかな困りごとにも対応でき、スムーズな説明ができます。
 ミニ精鋭の裏のねらいは、ストレスを感じさせないことです。操作している間にイライラさせたら、もうその人は消極的思考まっしぐらです。ある程度、使用していることを認める声かけもあると効果的です。なお、子どもに操作方法を教える際にも有効です。

3.自分の中でのチームを組む

 ミニ精鋭を組むのは、あくまでも端末操作についてです。ここで言うチームとは、推進の脳とも言える集団を指します。よく、プロジェクトチームとも言われていますよね。
 ですが、堅苦しいチームではありません。例えば、「16:15から算数教室でICTチーム会議をします」というのはうまくいきません。誰かが話し、誰かが聞いているという状況では、生産性が低いです。自然にICTの活用について話せるチームです。
 私自身、チームという名で結成はしていません。心の中で、「この人はICT活用に長けている人だな」「ICT活用するねらいを共有できる人だな」と思える先生を勝手にチームに加えています。
 話す内容は主に授業です。

  • こんなことしてみたんだけどどう?

  • 学級サイト作ってみたよ

  • スプレッドシートで振り返りをやるんだけどさ、なんかしっくりこなくて…

  • 自由進度学習でやってみようと思うんだけどね

 自分と考え方が似ている方や活用に前向きな方はある程度いると思います。その方をターゲットに声をかけ、
「よし、次はこれをがんばるか!」
という気持ちをもつことで、新たながんばりにつながっていくと思います。その際に気を付けたいのは、

  • 愚痴、悪口大会

  • 使い慣れていない人を置いてけぼりにする

です。これはNGです。

4.イノベーター理論を生かす

 イノベーター理論というのをご存知でしょうか。
 東大IPCによる説明を引用します。

イノベーター理論とは、新たな製品(商品・サービス)などの市場における普及率を示すマーケティング理論をさします。1962年にアメリカ・スタンフォード大学の社会学者 エベレット・M・ロジャース教授(Everett M. Rogers)によって提唱されました。

イノベーター理論をわかりやすく解説!【事例あり】東大IPC


イノベーター理論をわかりやすく解説!【事例あり】東大IPCより

 まず、イノベーターは革新者という意味です。情報感度が高く、何事にも積極的です。どんどん前を向いて突き進んでいる方です。
 アーリーアダプターは、急進的ではないものの、前向きに物事を考える方のようです。具体的なメリットを考え、よいと判断したものを取り入れる傾向にあります。
 アーリーマジョリティは、周りの変化に敏感のようです。所謂、「流行り」に遅れたくないという層です。上の二つの層に追従していく方が多いです。割合も多いので重視したいものです。
 レイトマジョリティも追従する性質はあるものの、どちらかというと消極的です。懐疑的である可能性もあります。メリットよりもデメリットや手間の方を強く感じているのかもしれません。
 ラガードは、新しいものを受け入れたくないという気持ちがあるのだと言われています。おそらく、世の中の伝統や文化になって初めて次の段階へ進むのかもしれません。
 この中でまず大事にしたいのはアーリーアダプターと言われています。先頭集団に火をつけば、アーリーマジョリティに流れていく性質があるそうです。イノベーターも含めれば、全体の5割がICT活用に前向きという状況です。たしかにこれだけでも、かなり大きな進歩といえます。
 私自身もそれを目指していました。学級担任をしているときも、まずは先頭集団に火をつけたいと感じていました。
 ですが、5月に校長に呼ばれ、こんなことを言われました。
「○○先生がチャットによるコミュニケーションだと、情報が流れすぎてしまうので困るという意見を書いていた。これはぜひとも解消してあげたい。」
 その先生は教務主任でした。最初はこの話を聞いたとき、腹がたちました。(その理由は最後に)
 ちょうど、この時期はチャットでの交流やICT活用に取り組み始めたころです。苦手な方にとっては、少々困っていた時期かもしれません。その後、いろんな先生方と相談するなかで、もう一回チャットの使用方法を見直してみようということでした。当時はしぶしぶでしたが、改善に乗り出しました。じきに、もう少し丁寧な説明があったほうがよかったなと反省しました。
 このように、苦手な方や使い慣れていない方のことを忘れてはいけないと感じる経験でした。実は先のイノベーター理論で、「普及の鍵はアーリーアダプターが握る」という説に一石を投じた論があります。以下の画像をご覧ください。

イノベーター理論をわかりやすく解説!【事例あり】東大IPCより

 キャズム理論というものです。簡単に言うと、左の層と右の層との溝です。溝があれば、全体に浸透しにくい状況です。このギャップが生まれる原因を東大IPCは商品の普及を例に説明しています。

 具体的にいうと、アーリーアダプターは「誰も使っていない商品を採用し、他者に先んじる」ことを望む層である一方、アーリーマジョリティは「多くの人が採用していて安心できる商品を採用し、他者に後れを取らない」ことを望む層である点にギャップがあります。

イノベーター理論をわかりやすく解説!【事例あり】東大IPC

 つまりは、ニーズの差です。こういう例は、数多く見聞きしてきましたね。今思えば、私もこのキャズムの前に打ちのめされていたかもしれません。
 ですが、おそらくキャズムを乗り越えたという実感を得た場面がありました。それは、7月の研修のことです。1学期の取組のまとめを作っていたときです。とにかく、たくさんICT活用してくれてありがとう!という意を込めようと、できるだけすべての先生方の実践をつめこみました。すると、思いの他、クラスルームの活用が進んでいたのです。しかも、苦手な先生こそ工夫をこらして活用しています。これには驚き、すぐさまスライドに加えました。

スライドの一部をぼかしています。

 もちろん説明の際には、「使い慣れていない」「苦手」というワードは一切使いませんでした。淡々としながらも、力強く感謝を伝えました。
 この研修が自分の中でも、大きな手応えを感じることができました。周りの先生方からも、より頼ってもらえるようになりました。
 気づかぬうちに、キャズムを乗り越えたのだと思います。推進に消極的な先生の味方になることが、大きな推進の一歩につながる経験となりました。

5.管理職

 元も子もない節になります。ご容赦ください。
 キャズムを乗り越えるかどうかは、管理職にもかかっています。やはり、組織のトップが変化を本気で願わない限り、小さな推進で留まることになります。
 私自身は管理職の経験はありませが、今年度の推進には管理職のマネジメントが必須でした。学校経営方針、校長方針に沿ってブレずに教育活動を支えてもらえる管理職であれば、大きな推進が可能です。
 4月のうちに、校長の方針や学校経営方針を頭に入れておく必要があります。ここに合わずに推進していくのは、難しいかなと思います。

6.巻き込んで発信する

 今年度はICT通信を発行をしています。当初は、2~3分で読める通信にしていました。先生方は基本忙しいですから、たくさんは読めません。ですが、2学期からは分量を気にせず書くようになりました。実は、思ったよりも読んでもらえるからというのが理由です。
 すべての通信ではありませんが、時折先生を巻き込んで通信を発行しています。こういうときにも、可能なら活用が苦手そうな先生を巻き込みます。
 例えば、特別支援学級を担当しているベテランの先生について発行したことがありました。

ICT通信の一部

 実はICT活用については、苦手でうまく使えないという意識をお持ちの方です。ですが、頑張って乗り越えようとしています。その姿を後押しします。引っ張りあげるよりも、後押しする方が楽ですよね。今のがんばりを認め、支えます。そして、形になったときに大きな喜びを分かち合います。この瞬間がとてつもなく楽しいのです。

7.先生が自然と使ってみる場面の設定

 1学期は先生方の校務での活用に力を入れていました。ここが校長のうまいところなのですが、自然と使う場面を設定してしまうのです。本校で言うと、

  • 遠足での様子や連絡をチャットで送る

  • ポータルサイトに仕事で活用する〆切リストや特別教室予約を埋め込む

  • 〆切リストにリンクの貼り方(動画)を挿入する

  • 宿泊学習、修学旅行専用チャットで打ち合わせの確認

  • 授業参観での学びをチャットで打ち込む

  • 県外の先生方との交流会をスライドで行う

  • 懇親会の打ち合わせをフォーム、スプレッドシートで行う

 いかがでしょうか?こんな形で先生が慣れ親しむことで、操作も覚えていきます。
 なお、職場でリンクの貼り方を教えたのは一人の先生だけです。きっと、動画を見たり、調べたり、知っている人が教えたりしたのだと思います。気が付けば、職員会議で使用するスプレッドシートはリンクだらけです。

8.落とし穴

 4のイノベーター理論で、私が腹をたてたのには理由があります。「情報とは、自分でつかみに行くものだ」と思っているからです。都合のいい情報なんか流れてきてくれません。ましてや、必要な情報を自動で並び替えてもくれません。デジタルな世の中になる前までは、付箋や手帳、Todoリストにタスクを管理していたと思います。
 ICT推進をしていると、先生方が便利に感じる瞬間に喜びや驚きを見せることがあります。そして、また自分を頼りにしてくれます。うれしい反面、一歩間違えるとその先生は、


その便利さがないと何もできない人


になってしまう恐れがあります。1学期のころ、

  • さすがに、これは難しい?

  • ・・・できるともっと楽なんだけど

というのを何度も耳にしてきました。まず、自分から動き出さなければ本当の意味での変化はありえません。ただ、周りに流され終わっていきます。一番恐ろしいのは、生成AIの回答を鵜呑みにすることです。
 どんなにデジタルな世の中でも、人と人のつながりが消えることはありません。そこには感情があり、人生があります。豊かな人生の方がいいに決まっています。
 そのためにも、情報とどう付き合っていくかを子どもだけではなく、大人も考えていかなければならないと感じています。うまくいっているときこそ、自分が一番冷静に俯瞰することを忘れないことで、本質をついた教育ができると考えています。
 リーダーというのは、そんな難しいポジションであるからこそ、やるせない気持ちになったりするのかもしれませんね。

9.最後に

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。ここまで書いたことを、もう一度実現させられるかどうかはわかりません。うまくいかない可能性だってあります。何度4年生を担任したって、まったく同じはずがないのは、目の前の子どもが違うからです。
 これは職員室の先生で考えても同じです。そして、がんばりを認める・支える・丁寧に説明する・教える・発信するということも同じです。教室で培ってきたノウハウを、推進にも生かせるかもしれません。
 この記事が少しでも、誰かの役に立ちますように。それでは、ありがとうございました。

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