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バイバイ(4~5歳)

父と暮らし始めてしばらくしてから、怒鳴られたり叩かれたりすることが増えてきました。
怒鳴られることも叩かれることも怖かった僕たちは、父の顔色をいつも伺いながら生活していました。子どもだった僕達はなにで怒られているのかがあまり分かっていないので顔色で判断するしかなかったのです。

そんな生活をしていたある日のことです。
その日の夜ご飯はいつものコンビニ弁当。弟の隆は、嫌いな食べ物があったのか弁当を少し残してゴミ箱に捨てました。父には内緒です。食べ物を捨てたことがバレたら間違いなく叩かれるからです。しかし、ゴミ箱に捨てた弁当は父にあっさりと見つかってしまいました。
”いつもの”が、隆に向けて始まりました。

『ごめんなさい…。』と泣きながら必死に謝る隆。
しかし父の殴る手は止まるどころか、激しさを増す一方。
その日の”いつもの”はいつもより長く感じました。
鼻血を出して…フラフラの隆を父は、今度は風呂場へと連れて行きました。
シャワーの音と隆の鳴き叫ぶ声。

隆は…風呂場でなにされているんだろう?

当時4~5歳だった僕は、怖くて動けず風呂場に行くことができません。
心臓の音がハッキリ聞こえるくらいバクバクしていました。

しばらくすると、風呂場から聞こえていた隆の声が止みました。
『ここで反省しろ!バカ野郎!!』
父の怒鳴り声が風呂場で響きました。
息を切らして戻ってきた父。そこに隆の姿はありません。

『お前もさっさと飯食え!』そう怒鳴る父。

そして、数十分後
『風呂場からアイツを連れてこい!』
と父に言われました。
僕は返事をして急いで風呂場へ向かいました。
何の音も聞こえない浴室の扉を開けたら…あれ?隆がいない?
浴槽はフタがしまっていて、洗濯カゴと椅子が乗っていました。
僕は、そっと浴槽のフタを開けてみました。

お湯の入った浴槽に中には、うつ伏せで浮かんでいる隆がいました。
声をかけても返事はありません。

『お父さん…隆が起きないよ…ねぇ!起きないよ!!』
泣きながら僕は、父にそう言いました。
父はすぐに救急車を呼び人工呼吸を始めました。隆は目を覚ましません。
人工呼吸によって、隆の吐き出した食べ物が床一面に散乱している中
父は人工呼吸を続けました。

いてもたってもいられない僕は、靴も履かずに外に出て
泣きながら救急車を待ちました。
早く…早く来てよ…
到着した救急隊員に泣きながら精一杯の声で言いました。
『ねぇ…隆を絶対に助けて!絶対に助けて!』
しかし、隆は目を覚ますことはありませんでした。

しばらくして警察が来ました。
事情を聞かれる父は、何かを必死に説明していました。
警察が帰ってからのことはあまり覚えていませんが、
分かっていることは、お父さんが隆を殺めたということ。

数日後、隆のお葬式がありました。
骨になった隆を見て驚きました。
人の骨を初めて見たこと、そしてそれが弟であるということに。
小さな小さな骨壺に入った隆を見て、本当にもう二度と会えないのだ、ということを自覚した僕は鳴きました。父も泣いていました。泣いた父を見たのはこの時が初めてでした。

お母さんだけでなく、
隆もいなくなった僕は本当に一人になってしまいました。

この頃の僕は、極度のストレスからなのか円形脱毛症で髪の毛が全て抜け落ちていました。

※有料の部分は後日わかったことを追記しています。

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