リミテッドジャック#03

二人の妥協案はもうこの生活に限界が来たら海外にでも移住する。となったらしい。僕がチャットに夢中になっている間に気がつけば二人で次のシングルについて話し合っていた。スタ練に遅れてくる程の僕だから大体話し合いには相槌程度の参加しかしない。二人の総意に対して判を押すような役目を担っているのかもしれない。決して音楽への熱量が二人より希薄だとかそういう訳じゃない。ただ僕たちは自然とこうなっただけの話だ。

ただ今回は違った。

「次の曲なんだけどメロウバラードなんかがいいとおもうんだけど。ソウマどう思う?」シンラの声で現実に引き戻された。電脳世界での触れ合いに夢中になっていた。

「だとしたら、あれだよね?」きっとあの曲だと直感で分かった。

「そう。でただ発売するんじゃつまらないと思わない?」

「どう展開するの?」

「FC限定販売ってのはどう思う?」

「ファンクラブか。確かに面白いとは思うけどさ。当然、聴けない人が出てくるよね。それとバイヤーとか出てきて荒れない?不公平過ぎやしないか?」

「そう、可能性はある。予想しきれない事態も起こるかも知れない。でも何事もさ、やってみるまでわかんないじゃん?」

次いでトキオがジョイントしてきた。

「策は少しは練った。FC限定で3曲入りで一般は1曲だけとして、このFC限定の3曲目入りシングル購入特典としてFC加入費無料、年会費一年間無料とするんだ。今後についてそういうキャンペーンをするかは分からないけど、これで現時点での確実な固定ファンの数が分かる。都道府県各所にどれだけいるのかも分かる。ワンマンツアーすることも今後あるかもしれない。そうするとあまり集客が見込めないスポットも見えてくる。経費はなるべく抑えるのは会社組織の基本だろ?俺たちだけ赤ならまだしも、スタッフの首まで絞めるような事はしたくない。FC限定の今後の特典はもちろんこれだけじゃない。ライブチケットの先行販売。FC限定席。FCカード提示でのグッズ割引。こんなことは誰でもやってる。それで二人で考えたのはポイントカードみたいなものを作ること。」

「ポイントカード?集めた特典は?」

「CDひとつの中にFC限定予約購入に限りシールを封入する。それを一定数集めるとポイントカードとCDを無料で交換できるって感じ。」

「それってどうなんだろう。一般との差があまりにも開きすぎな気が。」

「でも個人情報預けて貰って、年会費まで払って貰うんだぞ?それこそ差がないとFC加入の価値が無くないか?」

「俺もそう思うよ。自分がファンだったらって考えたらさ。これこそソウマの言う思いやりじゃないのか?」 シンラも言う。

「じゃあ一般への思いやりはどうなる?この情報の伝搬がうまくいかずにキャンペーン終了後に知って悲しむ人がでてきたらどうする?」

僕の返しを分かっていたと言わんばかりにトキオがレシーブした。

「そこで、あらゆる伝搬媒体同時刻ジャックだ。」

「テレビ、ラジオ、配信アプリ、電光掲示板、飛行機内モニター、ネットニュース、新聞や雑誌などの情報紙媒体、思いつく限り全てで宣伝告知する。」

「なるほどな。いまのだけでも充分すぎるくらいかもしれない。そこまで手を打つならアリかも。ただ予算は?」

「おいおい、俺たちを誰だと思ってんだ。Moon Raverだぞ。ここまでやるなら、無論ポケットマネーよ。」シンラが当然のように言う。

僕はそこでGOサインを決めた。

無言で肯いた。二人の瞳に月が反射しているのか煌めいて見えた。

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