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ケアマネと訪問看護師にフレックスとリモートワークを導入した話①

はじめに

介護×DXを語る上で、これまでに取り組んできたことをまずは振り返ることで、テクノロジーさえいれればよいというわけではないことのヒントが得られると思う。むしろ、テクノロジー以外の部分が大変なのだ。医療や介護系の仕事は、パソコンと通信環境さえあればどこでも仕事ができるという職業ではない。DXと呼ぶほどの取り組みでもないが、この程度の変革でもなかなか苦労することがお分かりになると思う。

導入までに必要だったこと

・就業規則の変更
・賃金規定の変更
・雇用契約書のとり直し
・勤務管理ソフトの変更
・介護保険の請求/記録ソフトの変更
・スマホ、タブレットの購入とセッティング
・業務管理ソフトの導入
・社員への説明会
・導入したソフトを使いこなすまでのレクチャー

主なものをざっとあげるとこんな感じだ。順を追って振り返ってみようと思う。

もし同様の仕組みを導入するにあたり相談したいという方がいればinfo@carecraftsman.comまでご連絡ください。

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株式会社ケアクラフトマン

導入にいたった動機

もう3年ほど前の話になるが、訪問看護と居宅介護支援に勤務する訪問看護師、セラピスト、ケアマネジャーに、フレックスタイム制とリモートワーク制を導入した。

それまでは、週休2日のシフト制で、8時15分から17時15分の8時間労働という体制をとっていた。

最初のきっかけは、出勤時間ギリギリに事務所にやってくる社員がいたこと。朝起きて、食事の支度をし、子どもを保育園に送ってから出勤していたが、朝がバタバタでいつもギリギリになってしまうということだった。

自家用車で出勤するので、スピードもそこそこ出ているに違いない。危ないな~と思いつつも、先輩スタッフは「もっと早く起きて時間に余裕を持ちなさい」と注意していたそうだ。

しかし僕がそこで考えたのは、「8時15分に事務所に出勤する意味ってなんだろう?」ということだった。

1件目の訪問は9時から始まることが多かった。勤務開始から訪問までの時間は、掃除をしたり記録を書いたり、情報共有をしたりしていたが、「それってこの時間にこの場所でしなければならない業務なんだろうか?」「そのために朝がバタつき車を飛ばして出勤するのってどうなの?」という疑問が出てきた。

利用者さん宅への訪問やサービス担当者会議などは決まった時間と場所でしかできないが、計画作成や記録などは、いくら考えても、いま、この場所で、やらなければならない、とは思えなかった。

訪問業務は利用者さん宅に行かなければできないが、計画作成や記録はいつどこでやってもいいじゃないかと考え出すと、この定時制のシフトが非効率すぎることに気づいた。残業もかなり多かった

そこで、1件目の訪問が9時からなら、それに間に合うように自宅から直行できないか、訪問が終わったら自宅に帰り、家事などが落ち着いた時間にゆっくり記録をするようにできないかと考えるようになった。

そこで思いついたのが、フレックスタイムとリモートワークを組み合わせた勤務体制への変更だった。

導入準備:フレックス制の壁

まずは、8時15分から17時15分の8時間労働、週40時間労働というルールを変える必要があった。つまり就業規則の変更だ。フレックスタイムという仕組みは知っていたので、利用者さんへの訪問に支障がなければ、その他の業務はいつでもどこでもできるようにしようと思った。

フレックスタイム制とは、例えば月に168時間など会社が定めた時間勤務すれば、出退勤は自由という制度だ。

ここで最初の壁があった。出退勤が自由というのは、仕事をいつ始めるかいつ終えるかを社員が自由に決めていいということだ。今日は気が乗らないから帰ろうとか、明日は休もうとか、誰の許可も得ることなく本人が決めていいことになる。→(追記)フレックスは始業と終業時間に自由裁量が認められる制度で、自由に休日を取れる制度ではないようです。出勤日に休んだり休日に出勤するのは通常どおり就業規則に則って申請と許可が必要です。

しかし、訪問看護の仕事は◯時に〇〇さん宅へ行く、とスケジュールが決まっているので、「気が乗らないから今日はやっぱ出勤しません」と言われても困るのだ。

労働基準法を厳格に守ると、明日の何時に〇〇さんの訪問に行ってください、という業務命令が下せないことになる。そこでコアタイムを工夫することでクリアできないかと考えた。

フレックスタイムには、フレキシブルタイムとコアタイムを設けることができる。フレキシブルタイムとは、例えば5時~22時の間で自由に出退勤してもよいという時間。コアタイムとは、必ず出勤しなければならない時間だ。

コアタイムを長めにとると、訪問の合間にちょっと家に帰って家事をしたい、次の訪問まで時間があるので買物をしておきたい、などの柔軟性を損ない、定時勤務と大して変わらないことになる。

訪問時間に合わせて1日に複数のコアタイムを作ることも考えたが、そもそも1分のずれもなく毎日決まった時間に訪問スケジュールを組んでいるわけでもない。

細かく決めようとすれば複雑になりすぎてしまい、管理も大変になる。

そこで、フレックス導入の狙いと労働基準法について詳しく説明した上で、訪問看護師たちと話し合うことにした。

結論は、フレックスタイムは魅力的なのでコアタイムを設けずに導入してほしいということになった。訪問スケジュールは組むし訪問に支障のないように訪問もする。社員側には出退勤の自由という権利があるが、そこは暗黙の了解というこで、こなすべき仕事はこなす、ということになった。

つまり、「私には出退勤時間を自由に決める権利があるので、明日のその時間の訪問はいけません」とは言わない、という暗黙の了解だ。まあ、そこ自由にされると利用者さんに迷惑がかかるので、「そんなこと言いませんよ~」とフランクな感じで決まった。

就業規則の変更を担当する弊社の顧問社労士さんは、始めは難しい顔をしていたが、社長と社員で合意が取れているのであれば、ということで納得してくれた。当時から叫ばれていた働き方改革に法整備の方が追い付いていない、としたうえで、先進事例としてアリかもですね、とも言ってくれた。

少し問題を孕んではいるが、まずやってみてダメだったらその時に考えようということで、最初の壁はクリア、ということにした。

もし「そんなアバウトな仕組みは納得できない」という社員が現れた時のために、定時勤務も残し、定時で働くかフレックスで働くかは自由に選択でき、いつでも変更可能とした。

続きは次回。
ケアマネと訪問看護師にフレックスとリモートワークを導入した②

介護サービスの会社を経営しながら、経営学を学ぶため大学院に通っています。起業前の13年間は特養で働いていました。介護現場と経営と経営学、時々雑感を書いています。記事は無料ですがサポートは大歓迎です(^^)/