イタリアンスタイルPastel−そして、この街にもいたカルチャーリーダー。

自分の住んでいる地域は、最寄り駅前など、比較的お店が集中している場所でも個人経営のお店が少ない。チェーン店とは違ったマニュアルありきのオペレーションではないサービス、地域に根ざしたサービスの提供をしているお店が、とても貴重だと昔から思っていた。
30代初めに会社を休職していた頃に、最寄り駅前にあるカフェレストランというか、イタリアンスタイルという看板がかかっているPastelというお店に、コーヒーだけ少しいただこうと思い、扉を開けた時のことから、なぜ今回このテーマなのか少し書き進めてみたいと思う。
初めて入ったPastelの店内は、街の洋食屋さんというか、とてもカジュアルなテーブルや椅子を使った店内で、少しだけ4人くらい座れるカウンターがあった。(のちに、このカウンターが、自分の定位置となり、そこから広がる世界があったのだけれど)カウンター内にいた店長と思われる男性が素敵な感じの人で、その時だけの印象ではないが、とてもファショナブルで、自分はお店の一番奥の席に座って、コーヒーを淹れていただき、少し閉店時間間際だったのだろうか、他のお客さんがいない中、店長とそんなに話すわけでもなく、静かに飲んで帰った気がする。
もしかしたら、初回に伺った時なのかも知れないが、たぶん、あまり間を空けずにまた訪れた時なのだろうか、少しその店長らしき男性と話をさせてもらった。ランチを食べたのだろうか、またコーヒーだけだったのかも忘れてしまったが、とにかく、夜も来てみたらと、言ってくださったので、また間を空けずに伺ったのだろうか、夜の営業時間にお店を訪れた。
たぶん、オープン直後に行ったと思うのだが、カウンターには誰もいなかったので、調理をしている店長、名前は古川さんで、のちに知るのだけれど「チーフ」と呼ばれている方の真正面の椅子に、話がしやすいように座った。これは基本、最初だけではなく、自分のカウンターでの定位置となった。
この場所に座っていると、小さいカウンターだが両脇に数人、仕事上がりの人たちが、現れ、やはり親しそうにチーフと話している。となりのお客と話すということも、皆あったと思うが、基本的にチーフとみんなという対面のスタイルになっていて、料理で忙しい時にはあまり話せないが、手が空いている時には色々な話題について、チーフ主導で盛り上がるというスタイルになっていた。話を聞いていると、とにかく話題が豊富な人なのである。ファッション、音楽、クルマ、料理、今、街で流行っていることetc.当時付き合っていた女性とも、何回かお店に伺って一緒に話をさせて頂いたが、どの女性も、このひと何者?っていういい意味での印象を持っていた人が多くて、なぜ、この自分の地元の徒歩7、8分の駅前立地に、そんなひとがお店をやっているのか、とても不思議に思ったことをつくづく思い出す。
最初の頃の印象を思い出した。お店の前には、BMWのオープンカー(Z3という車種で、チューニングメーカーのACシュニッツアー仕様、今まで都内でもほとんど見かけたことのないクルマ)がいつも駐車してあり、それはチーフの愛車なのだけれど、それもお店の外観と相まって、とても地元の最寄り駅前にあるお店の雰囲気とは思えなかった。そのBMWがただのZ3という車種だったら、そうとは思わなかったが、(先に書いた通り)チューニングメーカーのエンブレムが冠してあり、そのクルマのフォルムとお店が作り出す雰囲気は、やはり南青山とか、中目黒とかのカフェのようであり、とてもおしゃれなイメージで、趣味で始めていたフィルムカメラで、BMW越しのお店の外観の写真を何度も撮った。その仕上がりのいいプリントはコレクションにしたり、自作のCDのジャケットに使ったり、被写体として、ひとつの作品にしてしまいたくなる本当に雰囲気のあるお店だったことが、今、とても懐かしく思い出されてならない。
話は戻って、夜の営業時間に伺った時のこと。夕食を頂いたが、おそらくパスタで、それはポモドーロというトマトソースのシンプルな味付けの料理。これが、本当に美味しくて、麺のメーカーはBarilla、トマトは缶のホールトマト、あとはオリーブオイル。アーリオオーリオではなかったが、ニンニクも少しは入っていたのだろうか、高級食材を一切使用していないのに絶品だった。トングを使って食べやすい高さにバランスよく盛り付けされていて、味、見た目ともに素晴らしく、その後もランチやディナータイムでも、毎回のように頂くようになり、自分にとってPastelの代表料理になってしまった。チーフは、その料理方法やレシピもそうだけれど、秘密にしないで家でも作れるように親切に教えてくれたのも、今考えると良心的。料理もそうだしファッションも音楽も、自分がただ好きということを独り占めにしないで、いいものをいいと、お客さんに伝えるひとだった。あと、なぜそれがいいのかということまで伝えられる感性があり、ひとりの料理人としてではなく、その感性が好きになってPastelに足繁く通うようになった。いつもお店に行ったら、新しい何かを教えてもらえたし、それが料理も含めて、この徒歩圏内のお店で体験できることが刺激的だったし、渋谷や南青山、表参道あるいは代官山に行かなくてもいい世界が地元にあり、本当にありがたかった。

この連載は「人生を折り返す前に」と称して、手帳を元に書き起こしたマガジンの基本、無料の記事ですが、もし読んでくださった方が、興味があり、面白かったと感じてくださったならば、投げ銭を頂けると幸いです。長期連載となりますが、よろしくお願いいたします。

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?