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〈祈りのエッセイ〉母に贈った姉のアルバム

  
 四十数年前、母が再婚したとき、姉は母に棄てられたと思ったようだった。姉も私も成人していたが、再婚は嫌だったのだろう。幼いころ、二人は母の取り合いで始終けんかをしていた。
 その母が病で亡くなった。
 亡くなる前、姉は母の看病に通い続けた。口で言うこととしている事との違いを、姉はついに説明しなかった。
 母が亡くなったのに続いて、義父も他界した。ともに離婚を経ての再婚だった。地方に移り住み、夫婦で寄り添いながら、新たな家庭を築いてきたのだ。つましい暮らしだが、私には幸福に映った。その大切な連れ合いを亡くしたこと、それは、義父にとって衝撃だったにちがいない。
 義父が亡くなった後、義父の娘さんが家の片づけに出向いた。実の娘との交流は続いていたのだ。私も一度だけ会っていた。娘さんは時間をかけて整理をしたようだ。義父の物、母の物をそれぞれ丁寧に分けて、まとめていったのだろう。
 しばらくして、その娘さんから私あてに段ボール箱が届いた。重かった。義父の写真があり、母の遺影や写真があった。母が新聞などに投稿した記事の切り抜きの束や、その下書きノートも重なっていた。
 箱のいちばん下に、風呂敷にしっかりと包まれたアルバムがあった。ニ冊あった。二つとも、姉が、我が子の写真をアルバムにしたものだった。
 一ページ一ページ、細かな字で成長の記録が書かれてあった。娘たちへの愛情と子育ての喜びがあふれている。
 母が一度も抱くことができなかった孫二人のアルバム。娘から母への心尽くしの贈り物だった。
 その姉も、今はもういない。
 
 
 
 

姉の風


 
姉の法事
お寺の入り口で一瞬
風が巻いた
 
夫も娘も口々に言った
─来てくれてありがとうって
 お母さん あいさつに来たんだね
─アウトドア派だったからな
 パッと来て
 パッと帰っていったねえ


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