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エモーショナル

「年上の友人ということでお願いします」

3月22日にピースオブケイク社で開催予定だったイベント『ロバートとベートーヴェンとの対話』。これは、イベント運営にあたり、たくさんの知恵と助言をくださった池松潤さんの言葉です。表に見えない部分の課題を次々と言葉にして「見える化」し、当日までの段取りを美しく整えてくれました。その聡明さと手際の良さに驚き、救われた気持ちになった僕は、感謝の言葉と共に「人生の先輩として尊敬しています」というメッセージを送りました。その時、池松さんからの返事は「先輩と呼ぶのはやめてください」に続いて、冒頭の言葉が添えられていました。

めちゃめちゃ応援しています。

常に冷静沈着、ロジカルな語り口、そんな印象が濃い仲高宏さん。これは、僕が「教養のエチュード賞」という個人コンテストを開催している時にサポートと共に送ってくれた言葉です。このメッセージが届く前、仲さんは僕に「主催するイベントの登壇者として参加してもらえないか」とお声掛けをしてくださいました。会場は大阪だったのですが、イベント当日、僕は東京にいる予定でした。一旦回答を保留したその翌日、仲さんはコンテストに渾身の作品を送ってくださり、続けて上記のメッセージを送ってくださいました。僕は東京から帰り、イベントに参加することを決めました。

魅力的な大人って何だろう?

昨夜、「#オシハタ」というオンラインイベントに池松さんと仲さんと僕はシークレットゲストとして呼んでいただきました。主催者が21歳の若者ということもあり、「魅力的な大人とは何か」についてぼんやりと考えていました。

基本的に僕は若者は優秀だと思っています。考え方は柔軟だし、生まれた時から最先端のテクノロジーが生活にある環境で育っています。年を重ねる毎に熟練されていく部分と、凝り固まっていく部分があって。もちろん経験によって洗練されていく領域もあるのですが、機能を止めてしまう領域もある。僕たちは、「新しいもの」を受け入れなくなった時から精神的な老化がはじまります。

僕は池松さんと仲さんが好きです。池松さんは、僕の目線とフラットな位置にいてくれようとしてくれます。「年上の友人」という言葉はその現れです。もちろん恐縮のあまり友人然と振る舞うことは僕にはできません。池松さんのことだからそんなこともきっとわかった上であえて言ってくれたのだと思います。そして、僕はその言葉にどれだけ勇気をいただいたことか。後日、池松さんは「本当の意味で若い人とわかり合うためには、瑞々しい成功体験が必要だ」と仰っていました。新しいことにチャレンジして、小さくても良いから新鮮な成功体験を得る。できなかったことができる喜びを身体に覚えさせることで、若者と同じ目線で話せるようになる。「でも、結局は初めての体験には敵わないんだけどね」と笑って話していた姿が印象的でした。

魅力的な大人になっていくためには、世代を超えてあらゆる声に耳を傾けることが必要だと思っています。「新しいこと」を〝新しい〟という理由だけで嫌悪することは、成長を放棄したことと同じです。年齢や性別、職業に関係なくフラットな目線でコミュニケーションができる池松さんのことを僕は心からリスペクトしています。

いつだって落ち着き払った振る舞いを見せる。そんな印象が強い仲さんですが、「ここぞ」という時はエモーショナルな一面を見せます。先述のエピソードだけでなく、あの日から今までに僕は幾度もそのエモーショナルな姿と出会っています。仲さんの本質は激しく燃えるエモーションです。その炎の周りを何重ものロジックが包んでいる。ロジックからエモーションがあふれた瞬間、人は心を鷲掴みにされます。その人の普段の振る舞いがロジカルであればあるほど、それは大きな衝撃となり魅力として輝きます。それは「人」としての魅力───人を惹きつけるものはいつだって論理を超えたところにあります。

「#オシハタ」のイベントでも話していましたが、仲さんは東日本大震災後、6万ツイートにも及ぶ田中泰延さんのTwitterを全て読んだと言います。そこに論理はありません。ある種、狂気的なその行いは、情熱から派生した道理なき説得力を生みます。

知性と感性

以前、倉本聰さんが俳優養成のために北海道に富良野塾を設立したドキュメンタリー番組を見ました。その中で倉本さんが「知性と感性のバランス」について話していた言葉が強く印象に残っています。

富良野塾には地方から俳優を志して門を叩く若者がたくさん訪れるようです。試しに彼らの演技を見てみると、技術が未熟で俳優として使えたものではない。ただ、粗削りではあるがどこか惹かれるものがあるのだと言います。

若者が富良野塾に入り日々訓練を受けていると、めきめきと技術は上がるのですが、それに反して魅力が色褪せていく。演技が上手くなっているのに、魅力的に映らないということが起きてくる。それは、経験を積み重ねることによって知性が感性に追いついてしまったということです。知性と感性のバランスは、感性が知性よりも頭一つ分だけ突出している時が魅力的なのだ、と倉本さんは話していました。

人間は経験を重ねると頭が良くなります。知性を高めることによって、感性がくすんでいく。もちろんロジックの美しさは魅力の一つです。ただ、僕が惹かれるのはロジックからあふれたエモーションを感じた瞬間です。知性を高めて、感性を磨くことに力を注がなくなった時、人は輝きを失います。必要なのは追いついた知性を、さらに遠ざける感性の成長です。振り子のようにその運動を交互に繰り返し、常に頭一つ分感性が優れた状態にしておくこと。

感受性を耕し続けることができる大人はほんの一握りです。数は次第に減っていく。理由は簡単で、努力し続けなければいけないから。人間は環境に順応し、疑問を持つことを面倒に感じるようになり、いつしか新しいことにチャレンジすることをやめてしまいます。新しい価値観に対して「嫌い」と言って背を向けている方がラクだから。その時から、成長は止まり、精神的な老化がはじまります。

若い人へ

僕が池松さんと仲さんが好きな理由は、好奇心をもって新しい価値観と遊び、「ここぞ」という瞬間に最大のエモーショナルな煌めきを迸らせるから。だから惹かれるし、彼らが何かをやる時は応援したい。ロジックを超えた共鳴は、人生における財産です。人と人のつながりの中でとても大事な要素だと思っています。

「あなたが言うのなら一緒にやりたい」

そう思わせてくれる大切な仲間とたくさん出会ってほしい。そのためには、自分が「そういう人」にならなきゃね。そう、魅力的な大人に。

結果的にそのようなことを話すタイミングはありませんでしたが、何より「#オシハタ」のイベントが盛況に終わってうれしく思っています。みんなが笑顔で集まることができて本当によかった。主催のきゆかさん、アルマジロ武田さん、クニミユキさん、まさとさん、猫野サラさん、ありがとうございました。このようなきっかけをいただけて心より感謝しております。

池松さんと仲さん、やっぱり好きだなぁ。思考の記録として、ここに残しておきます。


「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。