見出し画像

「ぼく」というデザイン

みなさんのおかげで、たくさんの『世界はデザインでできている』感想文が届いております。


どの感想文も個性的で、すばらしく、読む度に本書に対して新しい発見があります(ぜひ読んでみてください*)。SNSでは「感想文を読んで、本を読みたくなりました!」という声も届き、実際に本を手に取ってくださる方もいたり。書いてくださったみなさんには心より感謝しています。

書いてくれた方同士がコメントし合ったり、そこから繋がりが生まれたり。「感想文」を通してコミュニケーションが生まれるって素敵ですね。とてもうれしいです。


みなさんの文章を読んでいるうちに、僕も書きたくなってきました。
少しだけ、感想文を書いてもいいですか?
(※一読者としての個人的な感想文です)


***


世界はデザインでできている

この本は大きくわけて、二つの層でつくられています。上の層には「デザインの楽しさ」がたくさん書かれていて、デザインについて全く知らない人にも「デザインにはこんな役割があるのか」「こんな考え方でデザインってつくられているんだ」という発見があります。下の層は「答えのない問いへの向き合い方」について。そこには「これからのデザインとは?」「自分らしいデザインとは?」ということのヒントが散りばめられています。

「知る楽しさ」と「見つける喜び」

「デザインとは何か?」ということをサクッと読むこともできるし、「自分のデザインとは?」ということを深く考えることもできます。読む相手によって引き出されるものが変わる。デザインに興味を持ったばかりの十代の人から、実際にクリエイターとして仕事をしている人まで、それぞれに合わせた「気付き」をプレゼントしてくれます。




「私は具義になりたい」

本書を読み進める上でのテーマは「私は具義になりたい」でした。「作品の種明かし」が本質ではなく、「具義さんはどのようにその種をつくり、いかに育てたか」に注目する。それさえ掴めたとしたら、少しだけ具義さんに近づくことができるはずです。

デザインの考え方や役割を知って「そうなのか」と納得するだけじゃもったいなくて。「どうしてそこに焦点を当てたのか?」「どうしてそれを思いついたのか?」「なぜそれがおもしろいと思ったのか?」というところを考えるととてもおもしろい。それはまさに「見つける喜び」です。

僕がはじめて具義さんを取材させてもらった時、記事の序文でこのような文章を書きました。

薬学博士の池谷裕二氏が〝直感〟と〝ひらめき〟の違いについて、このようなことを言っていた。

きちんと論理立てて説明できることが〝直感〟で、「なんだかよく分からないがこっちの方がいい」というのが〝ひらめき〟だ、と。

秋山氏は次々と〝ひらめき〟を〝直感〟に落とし込んで相手の心に届ける。しかし、氏が最も大切にしているのは〝直感〟よりも〝ひらめき〟にある。


具義さんは、いつも「答えのない問い」と向き合っています。「あれはどうしておもしろいんだろう?」「これはどうして興味を引くんだろう?」「今、どうして心が動いたのだろう?」。具義さんは〝ひらめき〟を次々と〝直感〟へ繋げていきます。その考え続けるタフさには驚かされます。


多くの人は「答えの書かれたもの」を見て、それについて覚えたり、感想を述べたりします。でも、クリエイターは「答えのないもの」に自分なりの答えを与えていかなくてはいけません。この本からはそんな「クリエイターとしての基礎体力」となるヒントを見つけることができます。それはいかなる時も、教えられることではなく、自ら発見することでしか身に付かない力なのです。

本書の中で具義さんは、近い将来、優秀なデザインは簡単にAIにコピーされ量産されていくことを予想しています。しかし、それは憂鬱に描かれていません。むしろ新しい時代が生み出すデザインに対して、わくわく空想しているように映りました。この「わくわく」の理由は、具義さんが今まで「答えのない問い」に向き合い続けてきたからだと想像します。「答えのない問い」に向き合い続けてきた人は、予想できない未来に対して、しなやかに(もっというと胸を躍らせながら)生きていくことができる。

AI化が進めば進むほど、一番の武器になるのは〝自分らしさ〟です。本の最後の「アートディレクター秋山具義ができるまで」には、具義さんがこれまでの人生で影響を受けた人や作品、心を動かされた体験が綴られています。それこそが〝秋山具義らしさ〟をつくっているということに気付かされます。

「自分はどうだろうか?」

「アートディレクター秋山具義ができるまで」はケースAのデザインです。ケースAのデザインを真似することが本質ではありません。僕たちが考えるべきはケースB、あるいはケースCのデザインです。つまり、僕の場合「文筆家、嶋津亮太ができるまで」に向き合うことが、自分らしいデザインに気付くヒントになります。

誰と出会い、何に感動し、何に夢中になったのか。〝自分らしさ〟は隣の誰かにつくってもらうのではなく、自分が自分の体験の中から見つけていくものなのだということを気付かせてくれました。



「遊び」と「まじめ」

具義さんとお酒の席をご一緒させてもらったことがあります。実を言うと、僕はお酒が強くありません。お酒がある空間は好きなのですが、すぐに酔っぱらってしまう。それはきっと、僕には大腸がないからなんです。消化機能がすこぶる弱い。その話をしていると、具義さんが言いました。

「腸って〝第二の脳〟って呼ばれているよね?じゃあさ、嶋津くん『第二の脳がない男』っていうタイトルの本を出したら?」

その場は笑いに包まれました。「大腸がない〝僕〟だからこそのお話を書いてみようよ」と。何気ないやりとりだったのですが、実はあの時、僕はひとり感動していました。『第二の脳がない男』というタイトル、ふと思いついたにしては、すばらし過ぎやしませんか?

具義さんは「遊び」を「まじめ」にやっていて。仕事とプライベートの明確な区切りはそこにはないんです。あるのはその比重だけで。常に「遊び」と「まじめ」が同居している状態。仕事では「まじめ」の割合が大きくなり、プライベートでは「遊び」の割合が大きくなる。たとえお酒の席でも、まじめに遊ぶ。だからおもしろい。

呼吸するように具義さんの口から出てくる「まじめに遊ぶ」言葉たち。それは、糸井さんが書いてくださった帯の通り「すべてがイタズラの延長のようにも見える」

その時、以前具義さんが話してくれた「鼠穴」と呼ばれる場所のことを思い出しました。そこでは夜な夜なクリエイターや編集者が集まって一緒にお酒を飲みながら語り合う。30代の僕からすれば、そこにいるのは全員憧れの人たちです。

具義さんが『第二の脳がない男』と言って、その場のみんなが笑った時、自分が「鼠穴」にいるような錯覚が起きました。それはまるで、ウッディアレンの映画『ミッド・ナイト・イン・パリ』のようにベル・エポックの時代に降り立った気分です。「鼠穴」では、集まったメンバーたちが「遊び」と「まじめ」を言葉にしながらこうやってお酒を酌み交わしていたんだ、と。

そんなお酒の席があるのなら、授業料を払ってでもそばでお話を聴いていたい。



あとがき

11月21日、ほぼ日刊イトイ新聞のコラム『今日のダーリン』で、糸井重里さんが『世界はデザインでできている』について書いてくださりました。それは糸井さんの想う、秋山具義さんのデザインについてのお話。その文章を読んだ僕はぎゅうぎゅうの山手線の中で泣いてしましました。

この『今日のダーリン』を読むために、この本作りに関わったのかもしれない。

糸井さんの言葉を読みながら、本の制作の過程で具義さんが糸井さんのことをお話になっている姿を思い出しました。具義さんが糸井さんのことをお話しになる時、そこにはいつも敬意とぬくもりがありました。「ああ、具義さんにも背筋を伸ばしてうれしそうに話したくなる人がいるんだ」と思っていました。「具義さんにも」というのは、「多くの人から尊敬されている人にも」ということです。そのことに対して僕から具体的な質問をしたことはありません。時に、直接的な言葉よりもずっと、佇まいから感じる印象の方が、受け手の胸を打つことがあるのです。そういう経緯があり、糸井さんが『今日のダーリン』の中でお話しになった具義さんについての言葉は、もう涙なしには読めませんでした。

こういう関係性って人生の宝だと思います。


「世界はデザインでできている」ことは、ほんとうで、それは、人間が人間をよろこばせるという意味でもある。なんだか、今日はアッキイをほめたくなってしまった。


ぎゅうぎゅうの山手線で一回、取材先で一回、夜ベッドの上で一回。糸井さんの文章を読んで泣きました。おかしいですよね、僕のことじゃないのに。あのコラムを読んで泣いたのは当事者以外ではもしかしたら僕だけかもしれません。具義さんの息遣いだとか、言葉の選び方だとか、一緒に過ごした時間の中で感じていたことが、糸井さんの言葉と繋がったんですね。このスペシャルな体験は僕だけのものです。「糸井さんのこの文章を読むために本をつくっていたのかもしれない」と思うくらいに。

この体験は、これからの人生において〝僕らしいデザイン〟の一部になります。糸井さんと具義さんの関係性は、僕が文章を書いていく中でのかけがえのない物語です。顕在的にも、潜在的にも、必ず文章のどこかに現れます。それは〝僕だけの〟デザインに変わっていくのです。


***


『世界はデザインでできている』の感想文をまだまだ募集しています。どうぞみなさん、noteで感想文を投稿してください。一緒に語り合いませんか?

▽マガジン▽



この記事が参加している募集

推薦図書

「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。