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とあるスタートアップマネージャーの権限委譲(デリゲーション)

EVeMアドベントカレンダー2022」という企画を開催させていただいております。ベンチャー&スタートアップのマネージャーさんを集め「マネジメント」をテーマに1年を振り返る企画です。

本稿では「権限委譲」をテーマに1年を振り返っていきたいと思います。

  • 時期:いつ権限委譲するか?

  • 方法:どう権限委譲するか?

自身の備忘録的なnoteではありますが、上記に悩んでいるマネージャーや事業責任者の皆様の思考のヒントになれば幸いです。

こんな人が書いてます

基本スペックは以下の通りです。

  • 33歳男性

  • 事業責任者を含むマネージャー経験4年

  • 設立5期目のスタートアップ企業に所属

  • ビジネスサイドを管掌(マーケ・営業・カスタマーサクセス)

少し補足をすると、複数シード~シリーズAのスタートアップ(SaaS系中心)で営業・マーケティング・カスタマーサクセス・事業開発等を一通り経験し、現在の役割に落ち着いています。

なぜ権限委譲を取り扱うのか?

組織が急拡大するフェーズでは、必然的にどこかのタイミングで、権限委譲を進める必要性に迫られます。

そして、権限委譲とは、概ね「良いことである」という文脈で語られるケースが多いように感じます。(具体的な出典を挙げることは今回避けさせて頂きますが、「どんどん権限委譲していこうぜ!」という

一方で、権限委譲は極めて難しい意思決定だと感じているのが、権限委譲を取り扱う理由です。

私見は後ほど述べさせて頂きますが、個人的には、10X社の矢本さんの整理に近い認識です。

権限移譲については「それだけ」を考えても、答えには到達できない無意味なものだと思っています。より複合的な条件を整理して考えたいといつも思っています。どういう事業を将来構築すべきか、そのために「今」どういうチームを組成すべきか、その中で最も難しく・不確実で・非連続な役割はなにか。そして理想に対し現実とのギャップはどうか。これらを勘案してCEOの役割を定め、権限をチームにアロケートする必要があります。

CEO/組織 360°レビューを受けました #2 

また、Nstok社の宮田さん「権限移譲する技術」も有名ですね。未読の方は、ぜひ一読を。

前提条件

検討の文脈について正確に理解頂くため、まずは、前提条件を整理しておきます。

  • 社員+業務委託で合計15名を管掌

  • 文鎮型=マネージャー&リーダー職は置かず全員直列

  • THE MODEL型の分業体制

  • 社員の約50%はポテンシャル層(営業など未経験)

改めて言語化すると、なぜ早急に権限委譲をしなかったのか不思議な状況ですね…。

文鎮型で意思決定が集中する上に、ポテンシャル層が多く、業務上の質問が発生しやすいため、日々大量の質問・相談が舞い込んでくる状況でした。(Slackの月間メッセージ数が3,000件を超えていた時期も)

なぜ権限委譲を進められなかったのか?

これは、私見も入りますが、権限委譲とは不可逆性の強いプロセスであると考えています。

より具体的に言えば、委譲した権限を成果に応じて剥奪する事(=降格)のリスクが高い事です。

当然、一定の権限を与えるからには、相応の成果を期待する事になります。

権限委譲とは、リソースのアロケーションを変える事で、全体最適を促し、組織の成果を最大化する取り組みであるためです。

もし、権限委譲をした結果、事業の成長が停滞・後退するようであれば、権限を元の責任者に戻すか、他の適任者へ役割の移管が必要となります。

当然これは、否が応でも「失敗の烙印」を押す事になります。

勿論、事前に成果に応じて降格の可能性を示唆する事でリスクヘッジはできますが、権限委譲が上手くいかなかった場合、権限委譲をしたメンバーのモチベーションの低下や退職に繋がる可能性は極めて高くなります。

権限委譲するという事は、貢献度が元々大きいメンバーという事です。常に非連続な成長を求められるベンチャー・スタートアップにおいて、権限委譲の失敗は絶対に避けたいリスクです。(もちろん、本人にとっても)

フィードバックを受けて改めて現状の課題認識をする

権限委譲については必要性を認識しつつ、数ヶ月以上、意思決定を保留していた所、外部のマネージャーとの勉強会で、

  • この人数(15名)ってさすがに見切れなくないですか?

  • 松本さんがボトルネックになって組織の意思決定が遅くなってませんか?

  • 本当に重要なイシューに取り組む時間を捻出出来なくなりませんか?

という趣旨のフィードバックを受けました。表現はだいぶ気を遣って頂きましたが(笑)、趣旨としては概ね上記の通りです。

実際の予定カレンダー

実際に、カレンダーは上記の様な埋まり具合が常態化しており、日中は自身がプレイヤーとして持っているタスクを全く進められない状態にあり、メンバーからの質問への回答も遅れがちでした。(隙間の時間で子どもの入浴・食事・送り迎え等をしていたため、実質朝から晩までバッファは0分という日が多かったです…)

特に、後者については、重要度が中程度以上の質問・相談について15名分が自身に集中するため、組織の意思決定・判断において自身がボトルネックになっている事は明白でした。

話を戻すと、指摘を受けた課題感は、認識し続けていたものです。ですが、改めて第三者の観点で、現状の問題点をフィードバックを受けたおかげで、権限委譲を進める意思決定にいたりました。指摘をくれたお二人には強く感謝しています。

役割と権限を整理・言語化して擦り合わせを行う

権限委譲を進めるにあたり、既に委譲すべきメンバーの当たりはつけていたため、まずは、委譲する権限の精査=権限設計から行いました。

権限設計表

ポイントとしては以下3点です。

  • マネジメントの対象を「人」「成果」「タスク」に分類

  • 権限委譲する対象者の経験と得意・不得意を考慮して委譲

  • 難易度が高いものは1on1等でアジェンダ化し、確実に消化

今回、権限委譲を行った2名は、両者とも、前職でリーダー経験はあったものの、ビジネス経験に差がありました。そのため、段階的に権限委譲を行う事にしました。

加えて、今回委譲仕切っていないテーマについても、大まかな委譲時期を定めています。(やや慎重過ぎる意思決定かなとも思いましたが、後から巻き取って、モチベーションや責任感を損ねる事はしたくなかったので…)

また、合わせて、役割・ミッション・KGI&KPIについても改めて整理を行いました。

役割・目標指標(黒塗りばかりでスイマセン)

ポイントとしては以下2点です。

  • 評価制度が存在しないため、期待役割を言語化し擦り合わせ

  • 事業特性上、指標が多いため、管轄するKGI&KPIを議論

ここ数ヶ月で組織が急拡大をしているため、評価制度が整備されておらず、今回アサインする役割・ミッションは、名称も定義も存在しない状態でした。

改めて言語化する事で、今後の評価制度の方向性を検討出来たのは、予期せぬ副産物でした。

結論、権限以上して良かった

権限委譲を行ったばかりなので、まだ目に見えた成果は得られていませんが、主に以下のモメンタムが確認出来ています。

  • 組織における問題解決のスピードが劇的に上がった

  • 権限委譲したメンバーがリーダーシップを発揮して新たな施策を展開

  • 相談のハードルが下がり、組織内のコラボレーションが活発化

もっと早く権限委譲をすべきかなと思う一方で、事業と組織の状態を振り返ると、最も良いタイミングで意思決定が出来たかのかなと思っています。

最後に

組織の規模が小さいうちは、マネージャーがフィードバックを受ける機会は限定的になります。

私自身は、事業に集中したいタイプで、営業や提携などの業務以外で積極的に社外交流を図ることはしていなかったのですが、改めて第三者の視点を取り入れる事の重要性を感じました。

もし、同様の悩みや課題感がある方にとって、EVeM社が運営しているマネジメントコミュニティ「Emo」は良い機会を提供してくれるのではないかと思います。(特に運営等に関わっている訳ではありませんが、良質なコミュニティ運営&プログラム提供をされているので、紹介させて頂きました。)

それでは、スタートアップマネージャーの皆様、良いお年を。


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