それ以外に生きる術を知らない
黒くなった空の下で、自転車のペダルを漕ぐ。3日前までいた東京と違って、大阪は視界を遮る大きなビルが少ない。街灯の数だけ人の数がいるような気がして、少しだけ不安が和らいだ。
大きな交差点で、信号が赤から青に変わるのを待つ。行き交う人々や車が通り過ぎるその様を目で追う。露出した肌に当たる冷たい風がやけに痛い。目の前の道は開かれているのに、どこへ進めばいいのかさえも何もわからなかった。このまま行けば希望は見えるのだろうか。それとも一寸先は闇なのか。何もわからないから手探りで少しずつ前に進んでいく。襲いかかる不安で胸が張りそうな思いだ。この不安からは一生逃れられないのだろうか。
どこかから止まるなと声がした。もしかすると、迫り来る不安から逃げるために走り続けているのかもしれない。何をしても不安は拭えないものなのに、今日も今日とて不安から逃れようとしている。
自転車のペダルを漕ぐ。少しずつ前に進みながら、不安や後悔をその場に置いてくる。走り続けているときは、すべてから逃れられるような気がした。冷たい風が痛い。逃げるな。逃げろ。でも、大事なものは置いていくな。そうやって自分に都合のいい世界をずっと作り続けている。
小さな女の子が空を眺めながら歩いている。危ないから前を向きなさいと子を叱る母親。愛はそこらじゅうに落ちていて、それに気づけるかどうかは人生に大きな影響を与える。空を眺める女の子のように、無邪気に自分のしたいことに向き合っていたあの頃が何だか懐かしい。できないかもなんて、微塵も思わなかったし、あの頃はきっと、自分の前に何がやって来ても楽しんでやろうと意気込む気概はあったはずだ。
足を止めた途端にすべてが終わってしまうような気がした。終わらせたいと終わらせたくないが木霊している。やらない理由を数えるよりも、やりたい理由を数えている方が心が楽になる。やらなかった理由をいくら数えても、いつだって後悔が勝ってきた。時間が経つのは本当にあっという間である。つい最近まで大学生だったのに、もう30歳になってしまった。この調子でいつの間にかおじいさんになっていくんだろうな。歳を重ねる楽しみがあって、同時に歳を重ねる怖さもある。不安と同様に、歳を重ねることから逃れられないのであれば、このままずっと前に進み続けよう。自転車のペダルを今までにない強さで漕ぐ。走り続ける。それ以外に生きる術を僕は知らない。
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