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雨が降る東京で見た打ち上げ花火が綺麗だった

先日、遠距離恋愛中の恋人と花火大会に行った。これが東京で見る生まれて初めての花火である。きっと死ぬ前に思い出してしまうにちがいない。今年はどうやら無料観覧場所が用意されていないらしく、チケットを持たない僕たちは途方に暮れていた。

有料席以外にも屋台はあるだろうと思っていたけれど、その考えも甘かったようだ。屋台がある場所にはチケットが必要らしく、花火だけでなく、屋台すらも楽しめない始末。事前に調べることの大切さを思い知り、来年はきちんと調べてから行こうと2人で誓った。

お昼までは天気が良かったのに、夕方ごろから雨が降ってきたため、中止の二文字が頭をよぎる。コンビニで焼き鳥やお酒、ビニール傘を買って、ひとつの傘で人が集まっている場所へと向かう。

花火大会の公式サイトを見ると「今日の花火大会は開催されます」と書いている。花火大会は無事に開催されるらしい。良かったと自分の強運に感謝した。

僕たちは有料観覧場所から少し離れた場所で打ち上げ花火を見ることにした。会場近くには僕たちと同じように、有料チケットを買わなかった人たちで溢れている。浴衣を着た人もたくさんいた。せっかく浴衣を着たのに花火はおろか屋台もろくに楽しめないなんて、悔しいだろうなと勝手ながら思った。目の前にグラスがあったなら、全員に乾杯をして回りたいぐらいだ。

男女数人のグループで来ている大学生がいた。あのグループから恋のひとつやふたつぐらいは生まれるのだろうか。でも、男性が食べたものを散らかしたままどこかに行ってしまい、女性がそれを片付けている姿を見てしまったから、恋愛の線は薄いのかもと思った。仲が良さそうな老夫婦がいる。これまでに何度一緒に花火を見てきたのだろうか。仲良しの秘訣は?聞きたい話がたくさん出てくる。僕たちもあんな風になれたらいいなと思った。

小さな兄弟が喧嘩をしている。どうやら兄に食べ物を奪われて怒っているらしい。弟は雨で濡れたアスファルトの上で拗ねていたのだけれど、その姿があまりにも微笑ましい。父親が別のものをあげるからおいでと言っても聞かず、それを見かねた兄が弟の近くに行くと、それだけで弟が満面の笑みになった。あの子は兄が大好きなんだろうとか、ずっとそのままでいてほしいだなんて勝手に祈っていた。

打ち上げ時刻が近づき、ついに花火が上がる。建物が邪魔をして半分ほどしか見えない。ビルに映る花火が1番綺麗に見れるなんて、誰も想像していなかっただろう。花火が綺麗に見える場所を探そうと、たくさんの人が場所を移動していた。花火が上がるたびに、たくさんの人がなだれ込み、花火が打ち終わった瞬間にたくさんの人が離れていく。そして、ついに僕たちが観ている場所はわずか数人程度になった。無料だから花火のおこぼれをもらえるだけで十分と微笑む恋人がとても輝いて見えたからもうそれだけで花火大会に来た甲斐がある。

色とりどりの花火たちはどんな物語を経て、空に打ち上げられたのだろうか。きっといろんな人の愛情を持って、ここにやってきたにちがいないなんてことを空に上がる花火を見ながら考えていた。

たくさんの人が花火が上がる瞬間をカメラで収めようとしていた。僕はカメラの奥で見る花火ではなく、肉眼で花火を見たいからカメラは構えない。これまでの花火大会の思い出は全部胸の中に残っているからそれでいい。今日こうして恋人と一緒に見た花火もきっと忘れないのだろう。

花火はついにフィナーレを迎えようとしていた。花火の最後と言えば、たくさんの花火が打ち上がり、しだれ柳で締めるのだろう。でも、しだれ柳は見えず、なんとも歯切れの悪い花火大会になってしまった。あっけない終わり方だったねと彼女が笑う。もしかしたらこれは来年も恋人と一緒に観に行きなさいという暗示なのかもしれない。

花火は一緒に見れなかった人を人を思い出すものと、どこかで聞いたことがある。花火大会には友達と行った記憶しかなく、一緒に見れなかった人の顔は思い出せなかったから、花火にいい思い出しかなくて良かったと胸を撫で下ろした。

花火大会が終わる頃には雨が上がっていた。帰路、居酒屋で今日の花火大会の反省会を恋人とした。お互いに考えていることは一緒で、勝手に頬が緩む。来年は浴衣を着て、東京で大きな花火を恋人と一緒に見たいと思った。きっと東京で初めて見た中途半端にしか見えなかった花火を一生忘れないだろう。

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