見出し画像

『アオアシ』:人間は考える葦である 青井葦人に夢を諦めた自分を重ねて

連載当初より読み続けているサッカー漫画『アオアシ』。愛媛でたまたま中学サッカーを観ていた福田が、青井葦人の一縷の才能を見出したところから物語がはじまる。

愛媛から東京の強豪ユース東京エスペリオンに入団し、度重なる試練を乗り越えていく青井葦人の成長物語を描いたものが『アオアシ』だ。

『キャプテン翼』のような人間離れした技はほとんど出てこないし、根性論でその場を凌ぐ展開は一度も出てこない。あくまでも理論に基づくサッカーが展開されており、プレーに再現性を持たせるために、言語化を用いている。

サッカー漫画のほとんどが全国大会優勝や世界大会優勝を掲げるなか、『アオアシ』はJユースを舞台にプロを目指す物語だ。そして、サッカー漫画はFWや司令塔について描いた物語が多いけれど、『アオアシ』はサイドバックの物語を描いている。加えて、チームメイトの全員がプロになるためにサッカーをしており、仲間であり、ライバルだ。葦人が仲間と切磋琢磨しながら、プロを目指す姿にグッときた人は多いのではないだろうか。

主人公の青井葦人は諦めない気持ちが誰よりも強い。東京エスペリオンユースの入団試験でテスト生よりも格上の相手と戦ったときも、仲間が全員諦めそうになった場面で、1人だけ前を向いていた。結果、東京エスペリオンユースへの入団が決まった。

東京エスペリオンに入団してからも、試練の連続が続く。これまで感覚的にサッカーをしていたため、サッカーの戦術の「せ」の字も知らない葦人はチームメイトから使えないやつという烙印を押される。どうすればいいかを必死に考え抜いた結果。東京エスペリオンのBチームのヘッドコーチを務める望にアドバイスを求め、少しずつサッカーの基礎を理解していくのだ。

葦人がFWとして少しずつ結果を残していくなかで、ある日、福田からFWでは世界には行けないと残酷な事実を突きつけられ、FWからDFに転向を命じられる。一度は下を向いたものの、仲間に迷惑をかけるなとサッカーを諦めずに、懸命に食らいついていた。葦人は自分が1番下手だと知っているからこそ、誰よりも努力を欠かさない。

「人間は考える葦である」とパスカルは言った。葦人の名前はそこから付けられたのであろう。どんな逆境に立たされようとも、諦めずに思考し続ける。考えに考え抜いた結果、自分が掴みたいものを自分の手で掴み続けた。『アオアシ』の面白いところは主人公だけでなく、登場人物の全員がどうやったらうまくなるか、試合に勝つかをロジカルに考え、実行しているところだ。

僕も昔サッカーをやっていた。偶然にも葦人と同じ左利きである。そして、MFからDFに転向を余儀なくされた。ずっとプレーしていたポジションを奪われる絶望感を知っているからこそ、葦人の辛さが痛いほどよくわかった。僕にも葦人と同じように諦めない力があれば良かったのだけれど、これ以上やってもプロにはなれないとサッカー自体を諦めてしまった。サッカーを諦めてからは、アルバイトに勤しんだ。周りの友人たちがサッカーボールを追いかけている事実を少しだけ羨ましく思っていた。

自分と同じような境遇を持つ葦人の動向をずっと追い続けてしまう理由は、サッカー選手になる夢を諦めた自身に葦人を重ねているからだろう。葦人が活躍するたびに嬉しく思うし、挫折する姿を見るたびに応援してしまう。

僕はサッカー選手になる夢を諦めたことを、いまでも少しだけ後悔している。あのままサッカーを諦めなければ、サッカー選手にはなれなくとも、何かを掴んでいたかもしれないと。

諦めた経験は続けた経験よりも、遥かに記憶に残りやすい。難病になって、サッカーができない体になった。サッカーができない体になって、もっとサッカーをすれば良かったと自分の運命をひどく恨んだ。

諦めないは一種の才能である。何事も簡単に諦めてしまえる現代で、何か一つをやり続けること自体が財産だ。自身が叶えられなかった夢を、いつか葦人が叶えてくれることをずっと願っている。

ありがとうございます٩( 'ω' )و活動資金に充てさせて頂きます!あなたに良いことがありますように!