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「この人しかいない」なんて嘘だった

半年前に、3年間お付き合いしていた彼と別れた。運命みたいな恋は、いつしか音を立てることもなく崩れ去った。そこから先の人生は絶望しかないと思っていたのに、大好きだった彼がいなくとも、私は幸せに暮らしている。

彼と別れた当初は、友達に迷惑をかけたり、夜はまとも眠れなかったり散々な毎日を過ごしていた。彼のLINEをなかなか消せず、何度も過去のやりとりを見返していた。やりとりを見返しているうちに、元に戻れるんじゃないかと、彼に連絡を送ろうとしたことも。そのたびに連絡が返ってくるわけなんてないと、自分の中の天使の声が私の指を止めていた。

友達の「もっといい人がいるよ」というアドバイスは全部皮肉に聞こえ、彼との別れが原因で大好きだった友達とも疎遠になる始末。恋に敗れてすぐにまともに戻るなんて難しい。すぐに忘れて、次に行く恋なんて、本物の恋ではなく、恋人ごっこだ。

でも、私には彼しかいない。なんて、全部嘘だった。私には私がいるし、世界にはまだ見ぬ世界が広がっている。好きなものに触れる瞬間は愛おしくてたまらいし、ずっと抱えていた大切なものはいまも大切なままだ。視野を狭めていたのは私自身で、そこから抜け出せたのもやはり私自身の行動だった。

私にはこの人しかいないと思えた恋ができたこと。それはかけがえないのない財産で、失恋したからこそ、得たものがたくさんある。

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大学で出会った彼は、身長が高くて、ルックスが良くて、ユーモアたっぷりの人気者だった。彼の隣を歩けているだけで、優越感に浸っていたし、みんなから好かれる彼とずっと人生を歩むつもりだった。自分がまさかこんなにも彼に陶酔する恋をしていたなんて、今思い出しただけでもゾッとする。

彼とお付き合いしていたときの人生は散々で、ずっと彼のことばかりが頭に浮かんでいた。朝、目が覚めて、LINEが来ていたら喜ぶとか、おやすみの電話ができなかったとか、彼の一挙手一投足に振り回される生活。いや。彼は振り回していたつもりはなかったのかもしれない。私が勝手に振り回されて、喜んだり、悲しんだりしていただけ。

本当に楽しくて、辛い恋だった。それでも思い出すのは楽しい思い出ばかりだ。春に桜の下でピクニックをしたこと、夏の海で空に打ち上がる花火を並んで見たこと。秋に紅葉を見に行ったこと、寒いでしょって言いながら、暖かいココアを入れてくれた冬のこと。当時は彼が隣にいるだけで幸せだった。そんな幸せがずっと続くと思っていたのだけれど、彼は私の隣にはいないのが現実だ。

彼との別れから立ち直れない。もう二度と彼のような運命の人とは出会えないと思っていたときに友達とカフェに行った。目の前でひどく落ち込む私はとても醜かったと思う。彼への喪失感をうまく拭えない私に彼女はこう言った。

「もっといろんなところに行ってみたら?自分で自分の世界を広狭めるのはもったいないよ」

帰り道、なぜか彼女の言葉が胸に突き刺さって抜けなかった。この時点で、自分の中で答えが出ていたからこそなんだろう。彼と一緒にいたことでできなかったことを紙に書き出してみる。

カフェ巡り、旅行、新しいスキルを身につけるなどやりたいことがスラスラと出てきた。すぐにできることもあれば、できないこともある。まずはできそうなことからやってみようと、新しいカフェを開拓したり、ずっと行きたかった北海道に旅行してみたりした。

何か大きなきっかけがあったわけではない。いろんなところに足を運んでいるうちに、彼がいなくても、自分1人でやりたいことをやっている時間が楽しいと気づいた。これは世紀の大発見である。自分1人で楽しいと思えるものがたくさんあって、それをひとつずつ片付けていくだけでどんどん時間が過ぎていく。もちろんそこに彼が入る隙はない。彼がいなくても、自分の足で楽しい人生を歩めると気づいてしまったのだ。

まずは自分で自分を満たすことができてから。恋愛はその次でいい。たとえ恋をしたとしても楽しいのは一瞬で、好きな人と一緒にいない空白の時間を自分の手で埋める必要がある。だったら、自分で楽しいと思える瞬間を増やした方が人生の幸福度は上がるはずだ。

彼と過ごした時間はずっと宝物で、出会えたからこそ、得たものがたくさんある。でも、彼といたことで自分の時間を犠牲にして、守るべき自分自身を自ら傷つけていたのも事実だ。彼が好きだったという気持ちに嘘はないし、好きになったことに後悔はない。出会えて良かったと本気で思っている。

傷つけられた過去は消えないし、涙を流した日々もずっと思い出として残り続ける。もしかしたら彼との時間は、一生忘れられない恋になるのかもしれない。それでも私は前に進んでいく。彼が私を振ってくれたおかげで人生が楽しくなった。そんな彼にありがとうと言いたい。

太陽が落ちる。光はなくとも、自分の手で光を作り出せばいい。きっとそっちの方が幸せだから。私の人生は私が幸せにする。これが私の人生の幸福論だ。

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