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秋は香る

久しぶりに降り立った大阪駅の地は相変わらず人が多かった。人の匂いの中に混ざる金木犀は東京よりも少し咲くのが遅い。大阪に住んでいた頃は、東京よりも2週間遅れで咲く金木犀をずっと探していた。数年前に金木犀の香織を香水にしたというニュースを見て、金木犀は街でブワッと香るからいいのになぁと思っていた。だが、人によって感性は変わるので、香水として使いたい人もいるのだろう。

秋の日差しは少し乾いた空気がやけに心地いい。紫外線が刺す光を見つけるために17時過ぎに外に出る。少しずつ青から赤に染まる空は、ほんの少しの寂しさを連れて来るようだ。秋から冬に向けて、その思いはどんどん強くなるらしい。先日飲んだ人が寂しさは暇から生まれると言っていた。時間を潰すためのものをたくさんもて寂しさは消える。確かにその通りだと思った。

夜になると鈴虫の心地よい音が街を掻き鳴らす。オーケストラに似た虫たちの合唱は心地よさを運んでくる。喧騒が訪れる街の中に束の間の休息は、明日を生きるための糧だ。寂しさと戦った過去を思い出すたびに、自身が強くなった現在に思いを馳せる。強さと弱さは紙一重だ。そこに大差はない。自身が弱くなる可能性もあるからこそ、心を強く保つ方法を考え続けなければならない。

久しぶりに地元に帰ってもらう「お帰りなさい」の言葉を聞いて、それまで張り詰めていたものが破裂しそうになった。強くなったと思っていたが、その言葉を聞いた途端に緊張の糸が解けて弱さに変わりそうになった。強いと思っているのは自分だけだ。安心感のあるこの街では強さは必要ない。ありのままを受け入れてくれる人がいる事実に心から感謝した。

秋は短い。そして、帰省の時間も短い。移ろう季節があるから、帰る場所があるから、頑張ることができる。考えれば考えるほどに何もかもがどうでも良くなって、このかけがえのない時間を懸命に楽しもうと思った。24時間という時間は変わらないが、充実している時間を過ごしていると、いつもよりも体感時間が想像以上に短い。

秋はすぐに終わる。食欲の秋、スポーツの秋、金木犀の秋、紅葉の秋、終わりが近いからこそ、思う存分秋を楽しみたい。もう2度とやってこない2023年の秋。秋が好きだ。毎年のように同じことを言っている。変わらないことを嬉しく思う。変われないことを悲しく思う。そして、あの頃を思い出せるようたくさん思い出を作る。あの頃は良かったと思える秋が好きで好きでたまらない。


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