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恋は薄まって、愛はまだ残っているよ

晴人は冬になると、お別れした彼女のことを思い出しては、切ない気持ちになってしまう。周りの景色がすべてホワイトアウトしては、その局面から抜け出す方法を模索し続けている。

2年前の冬に好きな人とお別れをした。2人は同棲もしていて、結婚は秒読みだと周りからも言われていたはずだった。順風満帆をずっと装っていた2人は、彼女の不満の爆発によって、跡形もなく消え去る。そして、絵里は同棲していた1LDKのマンションを飛び出した。

「恋愛はどちらか一方が悪いわけではない」とよく言われているが、この件に関しては、ぼくだけが悪いのだ。小説や映画、アニメでは涙を流すくせに、きみの涙に気づけなかったぼくが完全に悪い。これは風の噂だけれど、絵里はいま、新しい恋人と同棲しているらしい。

その事実が受け入れられなくて、まだぼくの元に戻ってくるんじゃないかと希望のない希望を抱いてしまっているのも事実だ。報われないと知りながらも、いまだに彼女を思い続けているぼくは弱くて情けない男でしかない。

「恋愛はどちらか一方が悪いわけではない」とよく言われているが、この件に関しては、ぼくだけが悪いのだ。小説や映画、アニメでは涙を流すくせに、きみの涙に気づけなかったぼくが完全に悪い。世の中は勧善懲悪だから、その報いを受けただけだ。

絵里とお別れをしてから適当にその辺の女と遊んだりもしたけれど、この渇きはまったく癒せなかった。無意味な夜に、無意味な行為。女遊びを繰り返しているうちに、虚無感がどんどん酷くなり、最終的には女遊びもやめた。

2年の月日がたったいまもなお、朝目が覚めたときに、きみが隣にいない事実をいまだに受け入れられずにいる。絵里とお付き合いをしていた頃は、ひとりでも生きていけると思っていたんだけれど、ぼくはひとりでは生きられない人間だということを、この2年でいやというほど思い知らされた。

いや、ぼくがきみに依存していただけだ。きみと出会う前までは、ひとりでも楽しく過ごせていたし、友達がいるだけで、幸せだった。

2人の出会いは5年前の春のこと。新卒で入ってきた絵里の直属の上司が、このぼくだった。絵里は物覚えが悪い。でも、持ち前の笑顔でみんなから好かれている人気者だ。絵里が仕事でミスをするたびに、尻拭いをしては、「先輩として絵里を育てなくてはならない」の一心で反省会を居酒屋で開いていた。

「山田先輩、本当にすいませんでした!」ではじまる反省会。そして、ぼくはいつもどおり失敗のフィードバックを絵里に行う。お酒の席で、真剣に話のメモを取る絵里は、誰がどう見ても真面目としか思えない。この光景がなんだか面白くて、個人的には反省会の時間は割と好きだった。

1杯目のお酒では、平常心を保っているが、2杯目以降は、彼女は必ず泣きながら反省をしている。念の為言っておくが、絵里に厳しい対応をしているわけではない。絵里はお酒が入ると、泣き上戸になるのだ。周りから見れば、女性を泣かせた男性という絵面になってしまう。泣き上戸になってからの絵里は非常に厄介だ。でも、何度も同じ目に遭うといやでも慣れてくる。

平日の飲み会が、やがて週末のデートへと変貌を遂げ、4年前の冬にぼくからのアプローチで、2人は恋人になった。実家暮らしだった絵里は、ぼくとお付き合いをはじめてすぐに、ぼくの家に住むことになる。

仕事もプライベートも顔を合わすばかりだ。最初のうちはその事実が幸せだと感じていた。仕事が終わり、絵里と一緒の家に帰路に着く。帰り道にスーパーで買い物をして、一緒の家で一緒に料理をする。何気ない日常が流れ、何気ないことをして過ごし、一緒のベッドで眠りにつく。

2年の季節が流れ、冬になった。周りから見れば順風満帆そのものの恋も、本当の内情は2人にしか知り得ない。最初は当たり前のようにそばにいて、当たり前のように結婚するとぼくは信じていた。

なにか大きな喧嘩をしたわけではない。小さな喧嘩の積み重ねで、2人が一緒にいる時間は減ってしまった。絵里は会社の同期と飲みに行くと理由をつけ、ぼくも同じように会社の同期と飲みに行くと理由をつけては、一緒にいる時間を減らそうとした。

でも、ぼくは彼女のことを愛していた。いまは彼女が、一緒にいる時間を減らしたいと思っていると思い込む。彼女も同じことを考えていて、2人の気遣いの結果、恋は薄まってしまったのだ。

そして、2年前の冬にぼくたちはお別れを選んだ。お別れを告げたのは彼女からだった。正直なんと言われたかはもう覚えていない。それに別れた事実は変わらないのだから、そんなことはもうどうだっていいはずだ。

2年の月日がたったのに、ぼくは彼女をひきづり続けている。絶対に運命の人だと思っていた。でも、運命は2人の仲を切り裂いた。いや、切り裂いたのはぼくだ。そして、運命を手繰り寄せられなかったのがぼくたち2人だ。

君への恋心は、2年の月日によって薄まっているのかもしれない。でも、彼女への愛はまだ残っているよ。その証拠に彼女と使っていたお揃いのマグカップも捨てることができていないし、2つ並んだ歯ブラシも片方だけが痛んでいく。

もしやり直せたらなんて、ありえないもしもばかりが脳内を駆け巡る。君といた冬の景色がいつか晴れて、きちんと春が来ますように。届かない想いを胸に、きょうもまた1人、広いベッドで眠りにつく。

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