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拝啓、失恋してみました

夏の夜、とうとう鈴虫が鳴き始めた。どれだけ季節が流れようと、寂しさに負ける夜ばかりだ。目を瞑っても目が冴えるだけ。どれだけ必死に足掻いても、勝てないものにはもはや勝たなくていいのかもしれない。いっそのこと潔く負けてしまったほうが、誰かに期待しなくていいから楽だ。ぬくもりが足りないから、目の前にあったぬいぐるみを抱きしめる。ほしかったのは人のぬくもりで、ぬいぐるみにはぬくもりはない。大切なものから順になくなっていくのであれば、もう大切なものなんていらないとさえ思う。それでも大切なものをほしがって、縋りたくなるのが人間の性。傷の舐め合いはやめたいけど、弱さを見せられる人を追い求めるだけの人生。胸を張って、誰かに見せられるものがまだない。立派な男になって迎えに行くからと言ったのに、迎えに行く準備ができていないまま10年が経ちました。元気だろうか。笑ったときに見える八重歯は誰かにも見せているのかもしれないね。大人になんてなりたくなかったよ。普通が皮肉に聞こえてしまうようになりました。いまは変なやつと思われると安心する。ほしいものと聞かれて、パッと浮かぶ人がうらやましい。かつての恋人には全員から何をあげればいいかわからないと言われていた。そんなこと言われてもこっちもわからないから困る。ただそばにいてくれれば、ほかにほしいものなんてなかった。それすらも素直に言えない愚かな人間だった。栄養不足、言葉不足、愛情不足。、いろんなものが不足ばかりしている。最初は我慢できたこともいつの間にか限界を迎えて、爆発したときにはもう手遅れだった。笑っているうちが花だなんてまさにその通りで、最終的には価値観のちがいで別れましたなんて恥ずかしくて人には言えない。そもそも価値観はちがうもので、別れた原因はお互いを許しあえなくなっただけだ。当たり障りのない理由を適当にでっちあげるところが君の悪いところ。君が我慢していたことを最後まで気づけなかったところが俺の悪いところ。なんて後悔したところで、終わった関係は元には戻らない。周りの人から1人で生きていけそうとずっと言われていたし、1人で生きていけるとずっと思っていたんだ。それはただの勘違いで、俺は1人では生きていけなかった。そんな当たり前の事実に気づくまで20年ぐらい時間が必要だったなんて笑える。俺なんかいまだに言葉にできない感情ばかり抱えて、うまく相手に伝えられずにいるよ。不器用だからで許されない年齢になって、自分の見せ方が下手だったと後悔している。なんて全部あとの祭り。そっちはどう?口下手なところは治りましたか?どっちでもいいんだけど、今世ではもう君に会いたくないと思っている。あとどうせうまくいかないだろうし、来世でもどうか巡り会わないでほしい。嫉妬させたい、こっちを見てほしいだなんて、俺を試すような真似ばかりさせていたのは全部こっちのせいだよ。君は全然悪くないから、どうか気に病まないでほしい。むかしむかしあるところに幸せに暮らすふたりがいました。お兄さんは証券会社のサラリーマンで、お姉さんは事務職のOL。どんぶらこ、どんぶらこ、お姉さんの前に大きな箱が流れてきました。お姉さんはふたりで暮らす家に持ち帰り、お兄さんと一緒に箱を開けると、そこには不幸が待っていました。ちゃんちゃん。

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