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異端の魅力 西村賢太著『小銭をかぞえる』を読む


☆☆★★★ドスンときます

ネタバレ注意



西村賢太氏の作品。

重いですね。重い。

読んだあとずっと考えてます。

なにが良かったのか。なにが魅力なのかと。


この本を3行でまとめると、

圧倒的なコンプレックスの塊の私が

長年夢みてきた恋人ができて同棲して

いろいろあったかい思いをしながらも最後は恋人「女」を言葉で暴力で痛めつけて終わる

作品。

表面的にはこんな感じ。

こうみると、なんで読んだんだろう。


週刊誌で故人である著者の愛人の手記が掲載されたという話を聞いて

その手記自体は読んでないけど一度は読みたいと思っていた著者の作品、

Kindleセールに背中を押されて3冊ポチったのがきっかけです。

最初は『どうで死ぬ身の一踊り』を読みました。

流れ的には上のまとめと同じ。


今回の作品はタイトルの『小銭をかぞえる』と併せて『焼却炉行き赤ん坊』も収録。

もうこのタイトルからして、グサってきます。

作品を読んだあとはさらにさらに。


昔学校のテキストでみたDVの構図のパターンに沿った私と女のやりとり。

とくに加害者側の視点とか心理とかが、リアルに伝わってきます。


主人公の私が恋人に手をあげる直前、

頼むから先に謝ってくれ、と願うシーン。


恋人が大事にしているぬいぐるみを滅茶苦茶にし、彼女に暴言を吐いたあと、

じぶんは言ってはいけないことを言い、やってはいけないことをしてしまった、

とハッとなるシーン。


主人公の私は根っからのサイコパスではなく

恋人のしぐさに可愛いなって思うシーンも多々でてくる。

二人の生活にあったかいものを感じてこれまで得られなかった幸せも噛み締める。

でも、金欠やら物事がうまくいかないやらでイライラして

恋人ともギクシャクしてドカンと爆発して彼女に当たる。

それは彼女にしか甘えられない甘さゆえで、

DV被害者側が私がいなきゃあの人はダメだって思い込んじゃうって話がよくあるけど

ある意味で実際そうなんでしょう。

暴力を受けとめてくれる人なんて普通いない。


DVの加害者側ってこういう視点か、って思うのと同時に、

こういう負のスパイラル的なパターンを理解しておいた方がいいと思う反面、

これはトラウマがある人は読んじゃいけない作品、と自分のなかで着地しました。


さて、結構ヘビーな読後感なんですけど

この次に読んでいる『残酷すぎる成功法則』で

西村作品を読んだ後のモヤモヤがすこしスッキリしましたよ。


『残酷すぎる〜』は世の中に幾多の成功法則があるけれど

ちゃんとエビデンスが取れているものとは?

って話です。


それで、序盤でいちばん面白いところが、

大半の子どもはタンポポ。でも時々蘭のような子がいる。

みたいな記載があって、

大半の子どもはある程度放っておいても普通に育つと。

でも、癖の強い子については適切な環境のなかでは天才となり、

適切な環境が得られないと能力を発揮できず落伍する可能性が高くなる。

こんな感じ。


上の「蘭」の例の一つにグレングールドの話!

彼もかなり潔癖でクセが強かったんだけど、

父親がお金をかけて音楽の教育を与えたことによって

天才ピアニストとなった。

バッハ好きの自分としてはグレングールドの話はたまらない。


西村作品の話に戻ると、

著者自身ももしかしたら癖が強くて、

一般的にはアウトサイダーなんだけど

その分、好きな文学に関しては徹底していて

無頼ゆえに非業の死を遂げた作家の藤澤清造氏に自分を重ねて

徹底して彼の作品等を収集し世に広めようとする。

実際、藤澤清造氏の著作は2020年に刊行されているし。


つまり西村賢太氏の作品からはものすごい熱量がこもっていて、

恋人や周りの人たちとのやりとりはかなり非情で利己的で薄情なんだけど

傾倒している藤澤清造氏に対しての情熱はどんなに苦境に立たされても諦めずに成し遂げようとする。

その全てをひっくるめて生のエネルギー、爆発力がハンパない。

岡本太郎が言っていた爆発ってこういうことかってくらい。


ただ著者の作品の爆発ってけっこう毒も強い。

くれぐれも取り扱い要注意な作品かと。






よくみるとカバー絵も象徴的。
主人公が恋人に重くまとわりつく感じ。


西村作品の1冊目として読んだのはこちら。
こちらもね、すごかったですよ。

未完の遺作としてこちらも購入しました。


今回は見送った苦役列車。
今回買った3冊を読み終えたら読もうかしらん。


西村作品を読むとごく自然に藤澤清造氏の作品を読みたくなる。
西村賢太氏の校訂版とは別に、元が青空文庫の廉価版があったのでこちらを購入しました。総ルビとあって漢字が難しくても読みやすい。登場人物が西村氏と同じような喋り方をしています。明治末期、病院もなかなかいけない極貧の様子が描かれてます。


こちらは世に溢れた成功哲学のなかでどれが本当か?どうすれば成功できるか?さまざまなエビデンスをもとに言及しています。橘玲氏が監訳。いい人は騙されやすいが最も成功しやすい。海賊社会では人種を問わず平等な組織だった。などなど面白い。


うちの子ノエルにちゅ〜るをあげます。