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エッセイ

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#小説

てんでんの時間

 “時計屋の時計春の夜どれがほんと”。

 夜道には春の風が吹いている。裏路地を歩いていると、時計屋に行き当たる。古びてはいるが綺麗に磨かれた硝子の向こうでは、沢山の時計が蠢いている。金ぴかのもの、フクロウを模したもの、置き時計に懐中時計、ちくたくちくたく、めいめいに時を刻んでいて、どれが正しい時刻を指しているのか、一向にわからない。
 時の迷路にまよいこんだようなその揺らぎ、遊離の感覚が、春の夜

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