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心理学の理論をもとに考える、ファンコミュニティのサービス設計

株式会社GaudiyでUXデザイナーをしているRyosukeです。「Gaudiy Advent Calendar 2022」の11日目を担当します。

弊社では「Gaudiy Fanlink」という、エンタメIP向けのファンコミュニティサービスを提供しています。

今回のnoteでは、自分の整理のためにも、普段のサービス設計やコミュニティマネジメントの際に大局的に意識している点を、心理学の知見をベースに書いていこうと思います。

「使い始める」と「使い続ける」は異なる成功体験

まずはじめに、サービスを設計する際に注意したいのが、ユーザーにとって「使い始める」と「使い続ける」は異なる成功体験であるということです。

よく混同して捉えられがちですが、「サービスを使い始めるきっかけ」と「サービスを使い続ける理由」は、別のモチベーションが起因しています。そのため、これらは別のフェーズとして捉え、それぞれの成功体験のUXを考慮したユーザーストーリーを考える必要があります。

では実際に、ユーザーはどのような行動変容プロセスを辿るのでしょうか?
心理学の動機づけ(モチベーション)の理論に基づいて考えていきたいと思います。

「内発的動機づけ」に至るプロセスとは?

動機づけ(モチベーション)には、「外発的動機づけ」「内発的動機づけ」の2種類が存在します。

外発的動機づけ…他人からの報酬など、活動とは別の動機がある動機づけ
内発的動機づけ…好奇心や関心など、活動に固有の動機がある動機づけ

基本的には、内発的動機づけの方が、高い学習効果やパフォーマンスを発揮するという研究結果が得られています。

これらの動機づけを扱う「自己決定理論」では、両者は対立概念ではなく連続的で、自己決定の度合いによって「外発的動機づけ」から「内発的動機づけ」へ至るプロセスを描いています。

※自己決定理論における内発的動機づけプロセス
(引用:https://www.katsuiku-academy.org/media/motivation-psychology/

これをサービス設計の文脈で考えてみます。初回の成功体験として、ミッションでインセンティブを獲得できたり、ユーザーにとっての実用的なメリット(〇〇についての情報収集ができる…etc)を提供してあげることは、効果的な外発的動機づけだと言えます。

ただ注意点として、こうしたインセンティブなど外発的動機づけは、即時的に効果を発揮する一方で、効果が持続しにくいというデメリットが存在します。また、内発的動機で行っていた活動に対して、インセンティブなど外発的動機づけが行われることでモチベーションが低下してしまう「アンダーマイニング効果」にも注意が必要です。

エンタメを例にすると、自分が好きでやっていた推し活に対して「お金をあげますよ」と言われたら、「お金のためにやっているんじゃない」と反発されると思います。ここの微妙な肌感は、コミュニティで炎上しないためにも重要な感覚です。

以上を考慮すると、ユーザーに長期的にサービスを利用してもらうためには、いかに内発的動機づけに基づく成功体験を提供できるかが非常に重要になってきます。

サービスを使い続けてもらうには?〜3つの心理的欲求を促進する〜

では、どのようにして「内発的動機づけ」は促進できるのでしょうか?

自己決定理論では、動機づけの根底には「有能感」「自律性」「関係性」の3つの先天的な心理的欲求があり、基本的にはこの3つを高めていくことが、内発的動機づけへのプロセスとして重要だとされています。

3つの心理的欲求

それぞれについて、サービス設計の事例とともに詳しく説明していきます。

「自律性」を高める

「自律性」とは、自身の行動を自らの意思で決定している感覚のことを指します。子供の頃、宿題をやろうとしていたのに母親から「宿題をやりなさい」と言われて、急にやる気を失った経験がありませんか?これは自律性が阻害されている典型例です。

コミュニティにおいても、ユーザーは運営からの一方的な意思決定や、コミュニティ内の会話や活動に運営が過度に介入してくることを嫌います。これらは「やらされている」「支配されている」と感じるため、ユーザーの自律性を阻害しているのでしょう。

ユーザーのモチベーションを保つためには、サービス設計やコミュニティマネジメントにおいて、自律性の阻害は避けなければいけません。

そのために、運営に管理・誘導されるような体験ではなく、ユーザーが主体的に活動できていると感じれる仕組みや制度で、自律性を促進する体験ストーリーを作ることが重要です。

具体的なHOWをいくつか紹介できればと思います。

自律性を「演出する」コミュニティ設計

コミュニティマネジメントの手法として、運営がユーザーからの意見をしっかり拾ったり、ユーザーの自主的な活動を取り上げ採用したりするストーリーを作ることで、自律性を促進することが重要です。

例えば「Gaudiy Fanlink」でのビジョン発信や運営においても、ファンと一緒にコミュニティを作っていく「共創」のコンセプトを大事にしています。ファンからの改善要望を反映したり、ファン主催の企画を応援したりなど、ファンのやりたいことを全力でサポート・実現することで(自分たちは「ファンダム」と呼んでいます)、コミュニティ活動に対するモチベーションを感じていただく。それによって、企画の主催や、UGC創作、カスタマーサポートをはじめとした価値ある活動を自律的に作り出してくれる状態を実現しています。

また、近年注目されている「DAO(自律分散型組織)」においては、ガバナンストークンの保有量(≒コミュニティへの貢献)で投票パワーを決定する仕組みがあります。投票によるものであれば、自分が影響を与えられる感覚があるほか、多数のユーザーによって決められているので、うまく「自律性」をドライブしている仕組みだと思います。

DAOとは(引用:https://www.caica.jp/media/crypto/dao-about/)

ひとつ注意点としては、改善要望などの反映は行っていくのですが、全てのことに変更を加えるということではなく、コミュニティのビジョンなどの根幹部分は、むしろ一貫したコンセプトを打ち出していくことが重要です。

ここの調整を誤ると、ユーザーは「何のためにコミュニティがあるのか」「自分たちは何をすればいいのか」と疑問を抱き、コミュニティの信頼を損なってしまう可能性もあるので注意が必要です。

ユーザーが「カスタマイズ」できる体験を提供する

Gaudiy Fanlinkでも数ヶ月ほど前に「マイカード」と呼ばれる、プロフィールカードを自ら設定したタグなどとともに作成できる機能をリリースしましたが、こうしたサービス内のプロフィールや手に入れたアセットなどをカスタマイズできる体験は、「自己表現」という形で自律性を促進することができます。

例えば、マインクラフトのように、アバターの外観、キャラクターの名前、基地の名前、ゲーム内の様々な要素をカスタマイズできる。また、自分が設定したアイコンやプロフィールカードなどが、他のユーザーから見える位置に表示されるなど、カスタマイズを他者に自慢できることができる仕組みになっていることも重要です。

フォートナイトでは、手に入れたスキンをフィールド上で他ユーザーに見せたり、リプレイ機能や三人称ビューで自分のアバターを確認できる
(引用:https://www.pcgamer.com/fortnite-is-getting-a-replay-system/

「有能感」を高める

「有能感」とは、環境の中で効果的に自分の力を発揮し、自分の有能さ(能力、才能など)を示したいという欲求です。

ここにおいては、努力してゲットしたアイテムや称号を自慢したりなど、自身の能力や才能を示すことができている感覚や、進捗感や達成感を促進させることが重要です。

また、コミュニティの中に一定のピラミッド構造や評価制度を設計するのは有効な手立てだと思われます。ただ注意として、他人に評価される仕組みは、能力が低いと判断されることを避けるため、モチベーションが下がってしまう場合があります。(この辺りの分析には、「達成目標理論」などが詳しいので気になった方はぜひ深ぼってみてください。)

こうしたアンチパターンを回避しつつ「有能感」を促進するための方法を、個人的には3つほど考えられると思ったので挙げてみます。

機械的な基準を用意する

基準が特定の人間の判断によって決まっていると感じると、これをリスクだと考えて避けようとする傾向が強くなります。

誰か特定の人間が評価するのではなく、機械的な基準やルールに基づいた評価システムは、公正なことによる一定の納得感が生まれ、否定されている感覚も和らぐので一定の効果はあると思います。

「個人としてどう成長したか」の絶対評価として表現する

他者との比較に目がいってしまうと評価されることを嫌い、炎上するケースが多いので、明確な目標設定を用意し、「以前の自分と比べてどれだけ向上したか」というあくまで絶対評価として見せることもひとつの方法です。

具体的には、プログレスバーで達成度を見せたり、データで自分の活動を振り返れる仕組みなどは有効だと思います。

以前、ファンスコア診断機能を設計した際には、「ファン同士の比較ではなく、個人軸で楽しめる体験」として、様々な個人の活動データを振り返れるようにしたり、「日々の活動をより楽しめる」のような伝え方にするなど、さまざまな工夫をしました。

複数の評価軸を用意し、多くの人にスポットライトが当たる体験にする

少数の評価軸の場合、上位に入り有能感を得ることができる人は少数のユーザーのみになってしまい、それ以外のほとんどのユーザーは評価されていないと感じやる気を失ってしまう可能性もあります。

そこで大事なのは、さまざまな活動や役割を取り上げて、さまざまな測定基準に沿ってユーザーを称えることだと考えています。実際、リアルな場や既存SNS(フォロワー数での評価)などで、評価を得ることができている人はほんのひと握りだと思います。

僕はGaudiyで、それぞれの推し活、その熱量が、いろいろな軸でより多くの人にスポットライトがあたることで、数多くの価値ある活動に還元されるようなコミュニティを作りたいと思っています。そのためにも、こうした体験は大事にしていきたいと思います。

Over Watchのプレイ結果画面では、数多くの測定基準で、個人記録(キャリア平均)を上回ったかどうかのポジティブなフィードバックが得られる
(引用:UX in Overwatch: The peak-end rule)

「関係性」を高める

「関係性」とは、他者と良好な関係を形成し、重要な他者からケアされたり、その他者のために何か貢献したい欲求です。

コミュニティの中で、他者と良好な関係を作りたいという欲求を抱くのは言うまでもないと思います。その中で、サービス側の重要な役割は、「新しい繋がりが生まれるサポート」と「深い関係値が築ける機会の提供」かなと思っています。

新しい繋がりが生まれるサポート

この点に関しては、Z世代をターゲットにしたSNS(Gravity, Kumooなど)はこうした体験設計が上手だなと感じています。

自分と近い属性のユーザーがレコメンドされたり、質問さえ設定しておけば他のユーザーに一定タイミングで質問が届き、そのユーザーが回答した時からメッセージが始まる機能など、話しかけるハードルもなく、自然にコミュニケーションを始めることができる仕掛けがたくさん用意されています。

深い関係値が築ける機会の提供

短期的なグループを作り特定の課題をクリアしたり、ギルドなどで長期的な関係を構築するなど、「協力プレイ」の要素が、ゲームに没入させる可能性を高めると言われています。

コミュニティにおいても同様だと考えていて、特定のグループを形成し、その中で役割を持ちつつ、協力しあってミッションを達成する(グループの成功に貢献できていると感じられる)イベントや、教え合うなど協力的な活動を促進するUXを提供することが有効な手立てなのではないかなと思います。

さいごに

自己決定理論の知見を土台に、コミュニティのサービス設計を検討してきました。

こうした自己決定理論を中心とした、動機づけに関する心理学研究をサービス開発に応用しようとする動きは、近年「LXデザイン(Learning Experience / Leaner Experience)」といった概念などで、海外では盛んになっていたりします。

自分もまだまだ勉強中の身なので、みなさんのご知見やご意見などあればぜひお聞かせください!

LXデザイン(学習体験デザイン)とは?
学習者が人間中心の目標指向の方法で望ましい学習成果を達成できるようにする学習体験を作成するプロセス

Gaudiyでは、UI/UXデザイナーやコミュニティマネジャーを絶賛募集中です。ぜひそちらもチェックしてみてください!

明日のアドベントカレンダーはaraiyu(@ara1yu)さんが担当します。

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