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西澤作品をできるだけ読んでみる18  『夢は枯れ野をかけめぐる』

 長年勤めた百貨店を退職し、現在失業中(ただ質素な生活水準を保てば、計算上は死ぬまで喰うに困る心配はない、くらいの貯えがある)の身にある四十八歳の羽村祐太は、卒業三十周年の節目にもともとは参加していなかった高校の同窓会に参加したその会場で、同級生の理都子から奇妙な頼みを受ける。それは分別されていないゴミを分別して、それぞれのゴミの種類の収集日に捨てて欲しい、という不可解なものだった……、

 約一か月半ぶりの西澤作品! 今回紹介するのは、
『夢は枯れ野をかけめぐる』(中公文庫 2010年)
 ――老いの中に鏤められた謎

 親本は中央公論新社より2008年に刊行されました。

 ※ネタバレには気を付けますが、未読の方はご注意を!

 エピグラフは松尾芭蕉の《旅に病んで夢は枯野をかけ廻る》。そんなエピグラフが似合う内容で、著者の厳しくもどこか優しさの残る物の見方が(良い意味で)強く表れた作品になっています。

 私は折に触れて本作を再読していて、おそらく今回で通読するのは4回目だと思うのですが、前に読んだ時よりもつねに、今回読んだ時のほうが胸に迫ってくる、という感覚を覚える作品です。本作で扱われている《老い》というテーマ――介護の問題や独居老人、年齢の離れた恋など――の現代性が増している、という面ももちろんあると思いますが、それ以上に私が前よりも年齢を経た、ということのほうが大きいような気がします。本人の意思とは関係なく、誰もが生きている限り等しく、老いていく。

 連作集の形で進んでいく本作にはミステリとして大きな仕掛けが施されていますが、純粋な驚きの質で言えば他の大仕掛けを施した西澤作品と比べて格段に優れているとは言いがたいかもしれません。しかしこの仕掛けによって迎える結末は痛切に胸に響くもので、作品のテーマと仕掛けがこれ以上ないほど合致したものになっています。老いの中に鏤められた謎が、美しい余韻を残します。《人生》というものをミステリの形で描ききった作品であり、恋愛小説としても印象深いところがあります。

 本作は決して西澤保彦の代表作と呼ばれる作品ではなく(すくなくとも私は代表作、という評価を聞いたことがありません)、知名度が高いとは残念ながら言えませんが、西澤保彦の《隠れた名作》のひとつとして愛され続けるべき作品だ、と私は頑なに信じ続けています。

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