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叶えようともしなかった夢の、残滓

 かつて物を書く人間になる夢を描きながら、漠然とその想いだけ浮かべて叶えようと(努力さえ)もしなかった青年がいました。

 積極的な行動などしなかった。ただ誰に見せるわけでもなく書いては捨て。書いては捨て。ただ自分だけが読むために書いているようなものだ。

 新人賞に応募していた期間なんて短い。結果は明白。別に悲しみもなかった。相応な努力もしていない人間に宿る悲しみなどなく、多少の自己顕示欲だけが青年をそれなりに悔しがらせた。十年くらい前だろうか一度だけ投稿サイトに載せたことがあったけれど、一ヶ月も経たずにやめてしまった。

 物を書く人間になりたいと願いながら、

 物を書く人間になんてなれないだろう、と。そして、なりたくもなかった。その夢に近付きたくて、遠ざけたかった。

 その矛盾した感情に、あの頃の青年は気付かず、数年の時を経た今はずっと目を背け続けている。

 私は、

 才能もなく、ただ書き続けている自分が好きだっただけなのではないか、と……、

 絶望に酔いしれる自分を求めていたのかもしれない、と。

 ぼんやり気付き、その事実を直視しないまま、青年は書かなくなった。

 もう物語を紡ぐことなんてないと思っていた。

 本を売る仕事に就き、たまにレビューを書いたり……そんな生活は思っていたよりもずっと楽しく、これからも続いていくのだろう。

 そんな私はnoteに来て、

 いつしか物語を紡ぐようになった。昔書いたものなんて、もちろん見つかるわけもなく、見たいとも思わなかった。だから私は一から紡ぎはじめた。昔書いていた過去など忘れて、赤ん坊のように。かつて誰からも、私からも愛されなかったゴミ屑同然の物語の延長線上にあるそれは、人の目に触れ、私だけでは気付くことのできなかっただろう、ちいさな煌めきを見つけた。私の目が曇っていなければ、それは確かに煌めきだった。

 私にとって、私の作品は、夢の、残滓だ。

 叶うこともなく、叶わなかったことにほっとさえしていた、なんら世の中から必要とされない男が新たに紡ぎはじめたそれは、

 叶えようともしなかった夢の、残滓だ。


 夢の残滓はいつの間にか50作品を超えていました。

 いまだに自分の中の冷静な自分が「何、書いてんの。お前」と言ってくるのですが、

 新たな煌めきを求めて、書き続けるのでしょう。

 私は性格が悪いので、

 私を創作の世界に引きずり込んだnoteと優しいみなさんが悪い、と他人のせいにしようと思います(笑)

 良い子はこんな人間にならないように!

 

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