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Ep.011: 隣の部屋のダニエル-ニューヨークの追憶

 私がファッション工科大学に入学したのは19歳の頃、私は、住む場所として、大学に隣接する学生寮を選択した。部屋が二つにベッドは4つ、ひとつの部屋をルームメイトとシェアする形態だ。私のルームメイトはドイツからの留学生ヤノッシュ、隣の部屋にはロングアイランド出身のジョナサン、そしてプエルトリコ出身のダニエルがいた。

携帯会社で働くダニエルは気さくで面倒見がよく、暇を見つけては世話を焼いてくれた。銀行口座を開くのを手伝ってくれたり、携帯を格安で手に入れてくれたりした。

ジョナサンは私達と交流することはあまりなく、女の子達とよく一緒にいた。彼の壁はブリトニースピアーズのポスターで埋め尽くされており、影で、彼はそっちの気があるのでは?と寮内で噂されていた。

ことわっておくが、アメリカのファッション大学ともなれば、9割の学生は女性であり、残る1割の男性生徒の90%はゲイであるので、彼にそういった噂があっても、誰かが変な態度をとるということもない。オープンであり、ごく自然のことである。

 寮を申し込む時の簡単なアンケートに、確か異性愛者か同性愛者か記入する項目があった。それぞれが答えたアンケートの結果によって、この異性愛者を自称する4人が同じ部屋に集まったのは偶然ではなかったのかもしれない。

私とヤノッシュと、隣部屋のダニエルはよく一緒にいて、夜の街に繰り出したりした。女性の話もよくした。

半年ほどして交換留学生だったヤノッシュはドイツに帰っていき、私はアパートを見つけて引っ越した。ダニエルの部屋には新しいルームメイトが入った。彼とはあまりウマが合わなかったらしい。

ほどなくして、春休みがやってきた。一週間ほどの休みには寮に住んでいる学生は親元に帰ったりしてほぼカラッポになる。残った者達はパーティでどんちゃん騒ぎするチャンスだ。

ダニエルの号令のもと、半年前に寮で一緒だったメンバーを中心に、私を含めた十数人が集まった。楽しい夜だった。

宵もふけた頃、ダニエルが私にハナシがあるという、ここで話せと言っても渋っているので、外に出た。ホロ酔いの私はてっきり新しいルームメイトの愚痴でも聞かされるかと思った。

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