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今の時代に必要なのは不便さを楽しむ心の余裕

物心ついた頃からインターネットというものに触れてきた私にとって、この国はとても異質な国だった。キューバ共和国、2015年に54年振りとなるアメリカとの国交正常化を果たした国である。

私がこの国を訪れたのは、その記念すべき日から約1年半後のこと。一度目の世界一周中、この国だけは今行かなければならないと、半ば義務感から訪問を決めたのだった。

アメリカとの国交が回復したことにより、今後アメリカ資本が大量に入ってきて、国の様相が大きく変化することが懸念されていたからである。クラシックカーが走るレトロな街並みが失われ、マクドナルドやコカ・コーラが街中に溢れることになるかもしれない。そうなる前に今のキューバを感じたかった。

50年以上前の車が今も現役で走ったり、食料が配給されたり、この国ではたくさんの驚きがあった。中でも衝撃だったのはネットが使えないことだ。厳密にいうとWIFIがないわけではないのだが、カードを購入したうえで特定の場所だけで使えるという代物だった。

今の旅人にとってネット環境がないのは死活問題である。宿を予約するのも、航空券を取るのも、現地の情報をチェックするのも、すべてインターネットありきだ。さらに言えば、友人と連絡を取ることすらできない。

そんな国で私は友人と現地合流する約束をしていた。普段ならライン一つで集合できるが、この国ではそうもいかない。そこで活躍するのが宿に置いてある情報ノートだ。過去の旅人が残した情報が記録されており、自分もメッセージを残すことができる。あらかじめ決めておいた宿の情報ノートにメッセージを残し、後から来る友人と連絡を取ったのである。なんとも原始的な方法だ。

このときはなんとかうまく合流できたが、実際に会えるまではドキドキである。そのぶん本当に会えたときの喜びはひとしおだった。電話すらない時代の人たちは、いつもこうやって連絡を取っていたのかと思うと、なんだか感慨深い。

ネットがないのは確かに不便だが、そのおかげで現地の人とのコミュニケーションも増えた。普段スマホに気を取られて見落としているようなところも、周囲の細かなことに気づけるようになった。不便は不便なりに良いこともあるのだ。

旅人は心が広いとか、多少のことは気にしないと言われるが、こういうところにその要因があるのだろう。自分でどうしようもないことは割り切って、置かれた状況を楽しむ。それこそが旅人が身につけた、この時代を生き抜く最強のスキルなのではないだろうか。


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