スレてない魚 小笠原ひとり旅7日目 #15
今日で母島とはお別れだ。たった3日しかいなかったけれど、すでに1週間以上滞在しているんじゃないかと錯覚するくらい充実してた。
時間の流れって、目を輝かせる時間だけ止まっているんじゃないか。
ひとは死を感じるときにスローモーションに感じるというけれど、心を奪われているときもスローモーションになるもの。
父島への出港は午後2時だから、午前中は泳ごうと決めていた。昨日会った島っ娘のお姉さんにおすすめしてもらった御幸之浜に行くんだ。
「御幸之浜への道はモモタマナの並木通りがつづいていてきれいなんです。実はそこがいちばんのお気に入りスポットで。そこはおだやかな海だから初心者でも安心して泳げると思いますよ」という言葉を思い出しながら。
さすがに道を塞いで車に乗せてもらう勇気はもっていなかったから、最終日もダイブリゾートさんで原付を借りることにした。ここでスキューバダイビングセットも手に入るし。そうしたらなんと「水中カメラもあるよ」と提案されて、海の中の・・・魚が撮れてしまうのか・・・?と嬉しくなって衝動で借りてしまった。実はiPhoneを入れるジップロックケースのようなものを買えずにいて、水中が撮れない悔しさをもっていたのだ。
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Sound - 御幸之浜
ビーチへ出ると、とにかく水中カメラが使いたくてたまらなかった。SDカードを移し替える前に一枚だけ撮る。いつも使っているSDカードを水の中に浸けるカメラの中へ入れるのは勇気が必要だった。OLYMPUSってすごい。
分厚いぶにぶにの靴を履いて、フィンを履いてみる。すだっちとカヤックの合間でちょっとだけ練習させてもらっておいてよかった。本当に自然の海で、いきなり初めての道具を使って泳ぐなんてさすがに怖かっただろうな。
水中カメラを片手に、浅瀬から攻めてみる。ライフジャケットがあるから意外と大丈夫そうだ。
慣れない海水浴は全身の体力をどんどんと奪っていったけれど、くたくたになるまで、動けなくなるまで、海の中の世界に夢中になっていた。海に漂えば漂うほどに見たことのない魚に出会えた。
「母島の魚はね〜、すれてないからいいんだよ。行ったらわかるさ。」とすだっちが教えてくれた通り、みーんな本当にすれてなかった。
だれも人のことなんて気にしてない。「知らない街の知らない人々のあたりまえの生活に触れられた喜び」に近いものを、海の中の生き物たちに感じていた。
ありのままの美しさが、ただあったのだ。
ヘロヘロの体で原付にまたがって、なんとかダイブリゾートに戻ってくる。行きは歩いていけるかもしれないけど、海で歩いたあとに港までなんて歩けっこないや。原付を借りておいて本当によかった。
外にいたお兄さんが、連日の母島の晴れを代表するような爽やかな笑顔で対応してくれた。
「いや〜ほんとにちょうどボニンブルーといわれる青さになったところですよ。ここまで綺麗だと、子どもみたいな発想になっちゃいますよね。飲めんじゃないか、みたいなね! かき氷にかけられるんじゃないかとか!」と嬉しそうに言っている。
恥ずかしげもなく、少年のように笑っている。それがなんだか心に強く残っている。
「小西さん!船に書かれている”ソ”、ってなんて意味でしたっけ?」
「底引きだよ!」
「ありがとうございます!」
と言って、強くつよく握手した。
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Sound - いってらっしゃい
母島丸の汽笛とともに島民のみなさんが(小西さん中心に)右手を口に添えて、力いっぱいの「いってらっしゃ〜〜〜〜〜〜い!」と叫んだ。
母島がすこしずつ遠くなっていく。文字どおり、みんなが見えなくなるまで手を振った。
沖港、北港、乳房山、小西さんの農場はあのあたりかなあ、島っ娘のお姉さんは今日も歩いて南崎までいってるのかな。行くときはひとつのかたまりだった母島が、いつのまにか、ひとつひとつの場所に思いを馳せられるようになり、名残惜しかった。
母島丸の船内は気づくと半分以上知っている顔になっていた。元々乗客が少ない上に、ちいさな島のいろんな場面で会話したからだ。
それは宿、ツアー、夕日スポット、ビーチなど。不思議なことに、街にいるひとがすくないと、「こんにちは〜」ってすれ違うたびに言いたくなる。世間が狭い分、声をかけ合った方が気持ちよく過ごせるからかば。実際に船を降りてから乗るまでに、60回くらいは言った気がする。
父島までは2時間、帰りはあっという間に感じた。あぁ、もうこのまま旅が終わってもまったく後悔はないと思った。まだあと4日もここで過ごせるなんて信じられない。
父島に帰ってくると湿度がさっきに比べてマシだった。カラッと気持ちの良い風が吹いている。母島は本当にじっとりとしていたんだなあ。お姉さんが父島に出かけるときにロングスカートをもっていく理由がわかった気がした。
夕日を見に扇浦海岸へきた。ロックウェルズに宿泊していたときもここからいつも夕日を眺めていた。
階段へ座ると日中の熱がまだ残っていて、太陽光のような暑さがお尻に降りそそぐ。島で太陽をみると、なにも遮るものがないので、目の裏につよく太陽が残る。
ここではいつも島民の同じメンバーで夕日を見ている。お酒を飲むわけでもなく、10人くらいがあつまって、夕日を眺めながら雑談をする。
年齢はバラバラで、若いカップルからおじいちゃんまで。わざわざ小笠原まで来て住んでいるもの同士、通じるものがあるのかなあ。日が沈んだあとも、ひとしきり話している。夜ごはんがなかったら、みんながいつまで話してるのか、ずっと見ていたい。
18時45分頃になるとなんとなく解散になって「それじゃ、お邪魔しました」と、それぞれのお家の方向にあるいていく。またねって言いながら。
思えばわたしも、昨日小西さんとゆったり夕日を見ながら色々とお話しした。タコの木が折れちゃった話、この農場へグランピング施設を作りたいけど、まずはベンチをつくることになりそうな話、写真を仕事にしてみたいけどまだまだ、な話。
結局どんな絶景でも、ひとりで見るのは一夜でいい。
ずっと見てたいと思うのは、すきな人とぼーっと夕日を見ながら最近あったことを伝え合える景色だ。この先新しい環境にいっても好きな人をつくれるコミュニケーションツールをいくつも持っていたい。それはなんだろう。
「どんな場所でどんな人と付き合うか」をみずから選んでたどり着く環境には、強いひとがたくさんいる。
ひとりでぼんやりとお邪魔させてもらっている。
知らない集まりにはいっていくには、自分が何者かを言えないといけない気がしている。わかりやすく、「自分がいま何をしているのか」を伝えられるものが欲しい。転職って一つのきっかけだけどここから何を積み上げていくかだよなあ。
朝からたくさん泳いで今日も本当につかれた。ビーチコマは広めのお風呂があって、ゆっくりと湯船に浸かれる。あぁ今日も幸せだったなあ。
まだまだ心を揺さぶる出来事と出会えるんだろうか。明日はイルカに会いにいく。
(次回へつづく)
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