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虹の彼方に 第4話 閉塞感と開放感(2)

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 それにしても大学は開放的だ。関係者以外でも自由に出入りできるなんて、魅力的だ。
 あたしはキャンパスを散策し、生協で記念グッズを買った。父さんにお土産だ。懐かしがってくれるといいな。
 一通りまわったあとでベンチに座り、母さんが作ってくれたサンドイッチを食べる。ひとりはちょっぴり寂しいけれど、大学生気分がなんとなく味わえて、少しくすぐったい。

 日曜日でも学生は多くみられる。研究室の実験に曜日は関係ないのかもしれない。それとも図書館で勉強しているのかな。案外サークル活動で来ていたりしてね。
 学生以外にも観光客だろうか、家族連れの姿もある。子供が広いキャンパスでキャッチボールをしている。高校は部外者が入れないが、大学はだれもがフリーパスで入れるんだね。

 できるなら、ここの学生になって歩きたい。でも今のあたしにはあと一歩届かない。

 お昼ご飯もすませたし、そろそろ図書館に行くか。
 実のところ今になって勉強が気になり始めている。
 得能くんとちがい、あたしの性格ではサボるって絶対にできない。というより遊んでいて優秀な成績を取る自信がない。悔しいけれど、頭の出来が根本的にちがう。

 そうだ。得能くんといえば、今ごろ何をしているんだろう。抜けられない用事はもう終わったのかな。もっともあたしには関係ない話だ。
 この大事なときにサボって、あとで泣くことになればいいんだ。
 泣くことに……。

 いやだ。あたしって、何を考えているの。人の不幸を望むなんて。
 いつも笑顔を絶やさない得能くん。昨日みたいに先生に呼び出されても、へこむことなく前向きな態度でのぞんでいる。そんな彼の泣き顔を想像して気晴らししているなんて。

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全部で10話ほどですが、1話は短めです。原稿用紙100枚を目処に書いた中編小説を改稿したものです。文字数換算すると、3万字強になります。

メンバーシップ特典マガジンと同じ内容ですが、会員以外の方に単独で販売するように設定しようとしたところ、うまくいかなかったので、改めて単独の…

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