虹の彼方に 第4話 閉塞感と開放感(1)
暑さで寝苦しくて、あたしは目が覚めた。
枕元の目覚まし時計は午前六時ちょっと前をさしている。遅くまで英語の長文読解をやっていたから、八時までは寝るつもりだったのに。
日が上ったとたん室温が上がって、おちおち寝られなくなる。一晩中エアコンがないと熟睡できない季節がきたみたい。
あたしはベッドから起きあがり、窓を開けた。朝の空気は思っていたほどじっとりしていなくて気持ちいい。
幸いなことに昨夜は熱帯夜ではなかったようだ。
キッチンに入ると、香ばしい匂いがあたしを迎えてくれた。 パン作りが趣味の母さんは、ダイエットの邪魔になると言っても聞く耳を持たない。「糖分は脳の栄養になるから、食べても太らないのよ」 と本当かウソか解らない言葉を口にして、せっせと甘いパンを焼いてくれる。それがまだ残っているのに、今朝はブレッド・マシーンで食パンを焼いている。
あたしは冷蔵庫の野菜を適当に使って簡単なサラダを作り、オレンジにヨーグルトをかける。
ボトルコーヒーをグラスに入れて母さん手作りのシナモンロールを皿に乗せたら、ちょっとした朝食の出来上がりだ。部屋に持ち帰り、サイドテーブルにおいて、昨日解けなかった数学に再挑戦する。
ある程度簡単な問題は解けるが、レベルが上がると途中で手が止まった。これではセンター試験の高得点は望めそうにない。
志望校を戻すのはやっぱり難しいか。昨日水野先生が持ちかけてくれたけど、断って正解だった。
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