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虹の彼方に 第9話 得能くんの想い

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「おれとワタルは幼馴染みなんだ。昔からの腐れ縁っていうのかな。あいつは小さいときからリーダータイプで、いつも面倒を見てくれたんだよ。おれは二人姉弟の下で、あいつは長男。そのせいかな。ひとつしかちがわないのに、ずいぶん年の離れた兄さんみたいな感じがするのさ」
 わかる、わかる。
 ワタルさんは頼りになるお兄ちゃんタイプだね。

「実はバンド活動を始めたのも、ワタルにはめられたのがきっかけなんだ」
「はめられた?」
「うん。あれは中学に入ったころだよ。ワタルに誘われて半分強制的にロックコンサートに連れていかれたんだ。
 当時のおれは、いろんなことがうまくいかなくて、何をやっても裏目に出てたいやなときでね。ストレスたまって爆発寸前だった」
 なんでも器用にこなせる得能くんにそんなころがあったなんて。あたしはにわかに信じられなかった。

「音楽といったらクラシックばかり聴いていたおれに、いきなりロックだぜ。信じられるかい?」
「てか、小学生がクラシックだけっていう方が信じられないよ」
「普通そう思うよな。でもうちでは親がいつも聴いていたから、おれには普通だったんだぜ」
 もしかして得能くんって、いいとこのお坊ちゃんなのかな。普段のイメージから想像できない。あたしはそれも知りたくなったけれど、根掘り葉掘り訊くのも悪いので、今日はやめておこう。
「ロックのCDを聴かされて予習したけど、うるさいだけっていうのが素直な気持ちだったよ。だから、これ以上ストレスになることはやめてくれって気持ちだった。でも、いくら断ってもしつこいから、仕方なくついて行ったんだ」

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2,966字
全部で10話ほどですが、1話は短めです。原稿用紙100枚を目処に書いた中編小説を改稿したものです。文字数換算すると、3万字強になります。

メンバーシップ特典マガジンと同じ内容ですが、会員以外の方に単独で販売するように設定しようとしたところ、うまくいかなかったので、改めて単独の…

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