虹の彼方に 第8話 大切な仲間たち
「いらっしゃい。お客さんが来ていたというのに、ワタルに任せっきりですまなかったね」
マスターが出てきてカウンターの中に入った。慣れた手つきでコーヒー豆を弾き始めると香ばしい匂いがあたりに広がり、あたしをリラックスさせる。
マスターは見た目四十前後くらいの中肉中背の男性で、瞳の優しい親しみやすそうな人だ。近くに住む大学生にもたくさん常連さんがいて、きっと仲良しなんだろうな。
「マスター、さっきは悪かったよ、店内で大声出しちゃって……。ごめんなさい」
得能くんは少し肩を落とし、マスターに軽く頭を下げた。
「気にするなよ。今は開店休業みたいな時間帯だし、ライブが始まったらもっと大きな音が出るしね」
優しい笑顔でそう答えながら、マスターは慣れた手つきでサイフォンにコーヒー豆と水を入れ、炎を灯す。
コーヒーが沸くまでの時間を利用して、トールグラスに氷を入れ、あたしと得能くんの前に置いた。そして出来上がったコーヒーをグラスに流し込み、ガムシロップ、フレッシュ、ストローも出してくれた。
「お待ち遠さま。これはワタルから。ふたりに差し入れだって」
「めずらしい。おれだけだったら、コーヒーなんて出してくれないのに」
得能くんは頬杖をついて、やや不満げな声で答えた。
「お嬢さんがいるからだよ。哲哉たちの大事なお客さまだからね」
え? もしかしてお嬢さんって、あたしのこと?
やだ、そんなふうに呼ばれたことなんてないから、照れちゃうよ。
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