虹の彼方に 第6話 見つかりたくないのに
あたしは一瞬、自分の目を疑った。
控室から出てきた受験生はよく知っている人で、不幸の大元を作った人だ。
そっくりさんじゃない。得能くん本人だ。
あたしは慌ててふたりに背を向ける。
「昨日教えたのと同じだろ。まだまだ理解できてないな」
得能くんが根を上げた問題を、ワタルさんが確認しているようだ。
「ちょっと傾向がちがうんだよ。あのやり方じゃ解けないんだぜ」
「おかしいな、練習問題だからそんなにややこしいはずはないんだが……」
あの得能くんが悩むなんてどんな問題だろう。それなのにワタルさんはスラスラ解けるわけ?
あたしは背中でふたりの会話を聞いていた。
まちがいない。聞き覚えのある声と話し方は、得能くん本人だ。ただ幸いなことに、ワタルさんとの会話に夢中で、今はあたしに気づいてない。
で、でもまさかこんなところに得能くんがいるなんて。
これって質の悪いジョークなの?
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