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24歳の君に、30歳の僕から、伝えたい言葉。

あれから6年が経ったらしい。地元鳥取で『ホンバコ』という名前のブックカフェをオープンしたのは、2015年5月23日のことだった。

当時の僕は24歳。飲食店経営どころか、飲食店で働いた経験すらほとんどないズブの素人のくせに、休学中の大学院を中退していきなり開業した。

我ながら「後先を考えない愚かな決断だ」と思う。もし身近にそんなことをやる奴がいたら「あいつはアホだ」「ビジネスを舐めてる」と腹の底で笑うことだろう。

結果的に、そのカフェが事業としてうまく軌道に乗ることはなかった。カフェ事業単体での黒字化は達成できず、約3年後の2018年3月に店を畳んだ。

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それから月日は経ち、僕も気づけば30歳になった。想像すらしてなかった結婚もしてしまい、今では鳥取に戻る機会も少なくなっている。ホンバコというカフェの記憶も、人々の頭の中から徐々に消え始めているだろうと思う。

だとしても、僕にとっては貴重な経験だった。それだけは間違いない。


せっかくの機会だ。
30歳になった僕から、24歳だった当時の僕に、
届くことのない手紙を贈ってみよう。

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拝啓、岡田良寛殿。

緑まぶしい若葉のすき間をさわやかな風が吹き渡り始めた今日この頃、お元気にお過ごしでしょうか?

カフェの開店に向かって終わらない準備に日々埋没して、さぞお疲れのことと思います。ギリギリのところ、よくオープンに間に合わせましたね。

さて、今日は未来のわたしから24歳のあなたに「開業のお祝い」と合わせて「激励のメッセージ」を贈ろうと、筆を取りました。バタバタと忙しく読まれないままにゴミになるかもしれませんが、いつか読む機会が訪れることを願って書き進めたいと思います。

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あなたが「僕がやります」と高らかに宣言をしてから半年。オープンまでのスピード感は、全国のリノベーションまちづくり界隈で(良くも悪くも)大きな話題になりました。鳥取市内においても、これほどの熱狂は過去10年を振り返ってもなかったんじゃないかと思うほどです。

ただし、肝に銘じてほしいのは「あたな自身がスゴいわけじゃない」ということ。そこを勘違いしたまま過ごしていると大きなしっぺ返しにあいます。

実際に、カフェを始めてからは心が折れることが連続することでしょう。たくさんの人から恨み妬まれるし、信頼していた人からの裏切りも当たり前のように経験する。「お金で縁を切る」という決断をしなければいけない局面も出てきます。心の底から憎しみの感情が湧き出てくる経験もします。

そのときに「自分はスゴいんだ」「自分は天才なんだ」と思い込んでいると、そのプライドがあなたの行く末を邪魔してしまう。とにかく目の前の事実を謙虚に受け止め続けること。それさえ出来れば、その経験すべてが長い人生の血肉になって活かされていくと信じて、とにかく謙虚に振る舞うように努めましょう。それが最初のメッセージです。

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そして、悲しい現実ですが、カフェは本当に儲かりませんあなたが思っている100倍は稼げないビジネスです。手元にはほとんど残らない。

きっと、頭の回転が早いあなたであれば、数ヶ月でも営業を続けていればその限界値に気づくはずです。そのときに最初の分岐があなたの前に見えてくることでしょう。

おそらく30歳になった今の僕であれば【即撤退】を選びます。
ですが、あなたにはぜひ【継続】の道を掴みにいってほしいと思います。

なぜならまだ若いから

もちろん即撤退の決断をあなたは選ぶことが出来ないでしょう。周りの人たちを多く巻き込みながら勢いよくスタートしたからには、おいそれと撤退をするわけにはいかない。というより、イニシャルコストをそこそこの金額かけた初めての事業をパッと損切り撤退できる人なんてまあいないでしょう。

しかし、もし撤退ができるほどの勇者であったとしても、継続の道を探ってほしいというのが僕の思いです。そうして、まだ世間が若いと認識している20代のうちに、出来うる限りの “失敗” を重ねてほしい

特に、店舗型のビジネスも、従業員雇用型のビジネスも、成功の原則から外れるビジネスだからこそ、挑戦する機会はなかなか訪れないもの。だからこそ、継続する道を模索するという稀な経験をこのチャンスで積んでおいてほしいと切に思います。きっとそれが長い人生においては大きな武器になる。

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僕は結局、約3年間ほどカフェを経営して閉じました。その間に、銀行融資を受けたり、スタッフを何人も雇ったり、色々なイベントを仕掛けたり、事業の横展開を目指したり、と多くの挑戦と数々の失敗を繰り返しました。

もちろん、それら全てに一切の後悔はありません

24歳から27歳の社会人として一番多くのことを学び取る時期に、他の人に味わえない経験をたくさん得ることができた。普通に会社員として働いていたら決して出会うことの出来ないだろう幅広い層の人たちと対等な立場で出会うことができた。本当に濃密な期間だったと胸を張って言える時間でした。

もしあのときに【即撤退】という決断をしていたとしたら、もっと大きな成功を収めていたかもしれないとは思います。だけど、人としての器は小さいままだったんだろうとも思う。

成功なんて30代で40代で目指せば良くて、20代のうちに磨いておくべきは “人間性” の部分なんだと歳を重ねれば重ねるほど痛感する。だからこそ、ホンバコという場所と機会を使って、思う存分のチャレンジを重ねてほしい。

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どうまとめていいかわからなくなってきた。(そもそも未来から過去に贈る手紙って設定が難しいよね)

そうだ。カフェの開業日は、47都道府県最後の上陸となった鳥取初のスターバックスと同じ日のオープンとなった。おかげでプロモーション的にはありがたい展開にはなったが、驚いたのは当日の開店前だった。

お店を作るときに何度か開催したDIYワークショップに参加してくれた人たちを中心に、飲食素人の個人カフェに並ぶ人数じゃない規模の行列ができた。きちんと集計していないけど、ザッと100人以上はいたはずだ。

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人口最少県の小さな街において、これほどの人たちに応援される機会はそうそうない。こんな経験をした人は、これからもそうそう現れないだろう。

カフェという場を続けていくという意味で、この人たちの期待には応え続けることはきっと出来ないとは思うけど、受け取った想いだけは死ぬまで忘れちゃダメだと思う。違う形でも、しっかり受け継いでいこう。


24歳は、まだまだこれからだ。
30歳も、まだまだこれからだ。

お互いに素晴らしい人生を歩んでいこう。

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2021年5月23日
アドレスホッピングで滞在している大阪のホテルから
30歳になった岡田良寛より。



追伸:個人店の開業で「テープカット」をするのって絶対に変だよね?

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