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今ビジネスパーソンがいま最も読むべきビジネス本、それは漫画『妊活夫婦』だ

目覚まし時計をかけずに起きる休日の朝。少し前まで同棲していた彼氏が出ていった後の広々としたベッドの上で、閃いたように目を覚まして、天井から降ってきた気持ちを拾い上げるように体を起こした。

「AMH検査行こ。」

AMH検査とは、卵巣予備能検査と呼ばれるもので、自分の身体に残っている “卵子の在庫(数)” を推測するための検査のこと。実際の妊娠には卵子の質も関係するため、まだまだ変数は残されるものの、卵子の残数を計測して平均値と比べることで、例えば私が受診したクリニックでは卵子の残数基準で “子どもがa人欲しいなら、b歳までに妊活を始めれば妊娠の可能性はd%です” という診断をしてもらうことができた。

突然AMH検査に行こうと決断したのは、新しく恋愛を始めるタイミングで、子どもを誰かと持つことになるにあたって、自分に残っている時間をできるだけ正確に知っておこうと思ったし、その重要性を、『妊活夫婦』という漫画で学んだからでもある。

『妊活夫婦』は、不妊治療のリアルを描いた漫画で、私が親愛なる友人と続けているPodcast『りっちゃ・りょかちのやいやいラジオ』で相方のりっちゃさんが番組内で紹介してくれた。

漫画の中では、夫婦が不妊治療に励む様子を紹介していて、あまりにも治療期間が長く費用のかかるステップや、その間に訪れる精神的なダメージ、仕事との両立の難しさなどが丁寧に描かれている。

これはAMH検査でも分かったことだけれど、読めば読むほど、「なんで知らなかったんだろう」と思うことが次々出てくる。例えば、2人以上子どもが欲しいなら、妊活は20代から始めることを推奨されることもあるのだ。

「おいおい、もっと早く言ってくれよ…!」

そう思ったのは、私が不妊治療をするかもしれない当事者だからというのはもちろんだけど、同時に、周囲に不妊治療をしている人が山ほどいたのに、今まで何もしてこなかった自分に反省の念がこみ上げてきたからでもあった。

職場の同僚や友人の誰かもきっと、この漫画の主人公

『妊活夫婦』は、これから子どもを持つかもしれない男女にはもれなく読んで欲しい。ただ、加えて、すでに子育てしている人や、あるいは子どもを育てる人生を選ばなかった人にも、ぜひとも読んで欲しい漫画だと言いたい。

というのも実際、『妊活夫婦』5巻末尾にあるデータ集にも載せられている『第15回出生動向基本調査(2015)』によれば、子供のいない夫婦のうち、4組に1組以上が不妊治療に悩んでいるという。つまり、漫画で描かれている現実は、自分でなくとも、職場の同僚や友人の誰かの悩みごとであることに違いないのだ。

さらに漫画の中には、友人や家族の配慮の欠けた対応に苦しむ人達の姿も描かれている。それらの描写が、私自身、実際に似たような話を何度も聞いたことがあるほど、残念ながら本当にリアルなのである。

そして、漫画の中で主人公は何度も、突発的なアクションを求められる。「明後日病院に来てください」「今夜の夫婦の予定を調整してください」——。さらに、2022年から不妊治療が保険適用となったが、それでも高額な施術がザラにある。しかしそれでも効果が出るかというと分からない。いつまでそれが続くかも分からない。

これ、働きながら出来る人、どれくらいいる?

だから、もっと社会単位でのバックアップが必要だ。マクロで解決しなければならない問題も多いけれど、それ以外にも、急な用事で仕事を離れなければならない事態にも対応できる仕組みをつくるとか、そういった人の仕事を一時的に引き取るとか、誰にでも隣の人のために出来ることが沢山ある。

さらに、もっと初歩的なことで、夫婦に対して「子どもはまだなの?」と聞いてみたり、既婚・未婚問わず、人に「子どもがいないと半人前だ」と説いてみたり、無意識の攻撃をしないようにするだけでも、社会はもっと優しくなれる。

当事者にとっても、未来の当事者にとっても、あるいは当事者の周りにいる人にとっても、この漫画が描いているリアルには、知らなければならない事実が詰まっている。

私たちは共働き夫婦としてのワークライフバランスの作り方をまだまだ知らない

最近まわりで『デュアルキャリア・カップル』(英治出版)という書籍を読んで絶賛する人が増えてきた。デュアルキャリア・カップルとは、双方がキャリアを重ねていく意志を持って働いているふたりを指す。

この書籍には、パートナー同士のふたりがどのようにお互いのキャリアを尊重しあって家庭と仕事を両立していくか、ということが書かれているのだが、先進的な働き方をしている人が多い私の周囲でさえ「これ、参考になった!」という声を次々に聞くのだ。それはこの書籍が素晴らしい一方で、つまりそれだけ「夫婦がキャリアを尊重しあって社会生活と家庭を両立していくこと」がまだまだ難しい証なのではないかと感じる。

そして、共働き夫婦のキャリア形成においては、子育てが課題として語られがちだが、その前段階の不妊治療でも、大きな苦労があるのである。実際、2017年の厚生労働省の調査によれば、6人にひとりは不妊治療のために仕事をやめている。

仕事に柔軟性をもたせることや、子どもの有無による偏見を取り去ることは、子どもを持ちたいと考える人達以外にとっても優しい世界になるはずだ。そういった社会があれば、毎日を自由に選べるし、若い世代も未来に希望を持ってキャリアを積んでいけるだろう。

「ふたり分のキャリアが家庭にある」 「男性も女性もバリバリ働く」 という状態が当たり前である世の中を、私たちはまだ生き慣れていない。

だからこそ、自分のために、誰かのために。子育て世代のことはもちろんだけれど、それ以外——例えば 「働きながら子どもを持つ選択肢のために努力する人」 への理解を深めることは、これからのビジネスマンにとって、必須の教養なのではないかと思う。

こちらの記事は過去に『Article』という媒体で公開されていたものを転載した文章です。


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