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「ご感想への返信2023」No.07

性的マイノリティの人にその事実を伝えられたとき、自分がどう対応するだろうかという点を考えた時に、「言いにくかったかもしれないけど話してくれてありがとう」というのを考えたのですが、これは対応として大丈夫か気になりました。日本では同性婚が未だ認められておらず、私はこの点に関してやはり日本は法整備が遅いと感じてしまう一方で、今認められたとしても同性愛者やそのほかの性的マイノリティの人に対しての差別や偏見が日本にあるため、一概に法整備だけが進むのも違うのかもしれないとも考えており、実際のところ同性愛者がどのように感じるのかも気になりました。もともと性的マイノリティに対してのトピックに興味があり、私自身も自分がどの立場なのか時々わからなくなるため、今回の授業は非常に関心を持つことができた。

学生からの返信

傾聴時に「よりそう」言葉、よりそった後に続く言葉

 ご質問中の「言いにくかったかもしれませんが話して下さってありがとうございます」という「感謝」の表現は傾聴に際して非常によく使われるもので、アレンジもされておらず、言うなれば「教科書通り」です。性的少数者からのカミングアウトに対しても使って何も問題はないでしょう。大丈夫です。しかしこれは「導入として穏当である」という意味です。

 あなたは「言いにくかったかもしれないけど話してくれてありがとう」と言うことを考えた。それ自体はとても素敵な言葉だと思います。「カミングアウトの大変さを理解している」と伝えている。「信頼を寄せてくれて嬉しい」とも伝えている。実際その二つは伝わると思います。ただ、他のことまで含んで伝えたいのであれば、その短い文字列はそこまで含意しない。あなたが想定した「患者から(友人からでも家族からでもよい)カミングアウトを受けている状況設定」がどういうものであったにせよ、経験上、それのみで終われる相談はありません。どんな主訴をもった人物を想定しましたか。「これは対応として大丈夫か」とありますが、対応はその言葉の後にある具体的な行動指針、プランニングになります。

 「自分のセクシュアリティに悩み、治療対象ではないのに治療しなければと思い込んで相談に来た」というような場合なら、患者からの主訴は「ゲイなのを治してほしい」であるかもしれない。同性指向は現在いかなる意味でも病気ではないので治療対象外であるから、そのような説明をして、同性を好きになる自分を患者が受容できるよう導ければよいでしょう。「話してくれてありがとう」と伝えた後に、そうした個別的ケアが続きます。

 友人/家族からのカミングアウトにも確認事項があります。まず初回相談時に「緊急の困りごとが起きていないか」確認する必要があります。例えば「学校や職場で孤立していて自死念慮がある」ケースなのか確認する必要がある。「よりそい」の後に、あるいは前にそういう確認が大切です。――今書いていて思ったのだけれど、これはルーティンにしてもいいかもしれない。「初回で緊急な要素を聞き取る」ことが主目的ではなく(理由:期待できない)、対話を「医療者である自分の領域から始める」ことで自信のなさをカバーできると考える。また支援対象に「そうしたリスクを認識していて、あなたを心配し、いつでも話を聞きたいと思っている」と伝えられる。

 さらには、医療者が患者からカミングアウトを受ける時には患者に具体的なニーズがあると思われるので「その言葉ではない」場合も考えられます。
患者のカミングアウトでは「患者がその後に話すこと」が重要なのです。

大丈夫だけど、「ただし万人ではない」「いつでも」でもない

 例えばその「伝えてくれてありがとう」は、私が5歳でゲイだと自覚した時、悩みぬいていた思春期の頃に「親から」言われていたら「劇的に心を開いた」と思います。きっと安心して、ボロボロ泣いたと思うのです。しかし50歳になった私が医療者である時のあなたにゲイだと伝えるのは「同性パートナーを医療方針決定の場に同席させられるか」等の相談という状況です。「ありがとう」の言葉ではなく「分かりました。医師に確認して後ほどご回答します」という対応を待っている。その状況で私が20歳のあなたから「話してくれてありがとう」と言われても響かないし、(もちろん大丈夫ではあるけれど)その唐突さに困惑するでしょう。「この医療者は私の話を聞いてくれていたのだろうか」と思うかもしれません。言葉は「相手によるし、相手の段階やタイミングにもよる。状況次第」ということなのです。だから「これを言っておけばいい」という魔法の言葉はない、と私は言うのです。

患者と形成したいものは何か、伝えるにふさわしいことは何か

 「親和的な空気を形成すること」「医療者と患者にラポールを形成すること」「その話はしてよかったのだと相談者を安心させること」「これからも話してよいと分からせること」「つらい中で大変な作業をやり終えた点について相談者の自己評価を助け自信回復につなげること」「支援に結び付いたと実感させること」であるなら、そのまま言えばいいことだと思います――「本当に必要なお話でしたし、話すと決断して下さってよかったです。今あなたは大変な作業をやり遂げたのだと思います。これは誰もができるわけではないような大変なことです。話して下さってよかったです。話すことは疲れますから、今日はどうかご自分を労わって下さい。支援に結び付くよう、ここからは私たちも一緒に考えて行きます。だからこれからも話して下さい」――ただ、そう言うのじゃいけないでしょうか。トツトツと真っ直ぐに、言うべきことを必要十分な長さで、伝えればいい。そう思います。
 ここに「ありがとう」は入っていないけど、これが言いたかったのではないでしょうか。分かりませんが、真意はそうじゃないのかなと思いました。


「一概に法整備だけが進むのも違うのか」について

 「(日本は法整備が遅いと感じてしまう一方で)今認められたとしても同性愛者やそのほかの性的マイノリティの人に対しての差別や偏見が日本にあるため、一概に法整備だけが進むのも違うのかもしれないとも考えている。実際のところ同性愛者がどのように感じるのか」ということですが、これには講師である私から、考え方のポイントを示したいと思います。(他の同性愛者がどのように感じているのかは分からないけれど)私も一応ゲイですので「私がどう感じるのか」についても話していいのかな。多分いいですね。

同性婚が進まないのは「国民の理解がないから」?

 政治家が「性的少数者に向けて言うこと」は、「国民にまだ理解が足りないので同性婚が進められない」ということです。税率を上げる時には決して聞かれない「思慮と苦悩に満ちた」お言葉ですね。「理解が足りない国民」の皆さんこんにちは。政治家の面々を悩ませ、私から権利を奪っているのは皆さんなんですか?――もちろん、そうではないと私は思っています。

「同性婚賛成、日本はアジア最高の68%」(2024/02/09)
同性婚「賛成」63%、30歳未満女性の9割以上が「賛成」(JNN世論調査)

 ただ明らかなのは、このまま法整備が繰り越された場合(あるいは白紙になった場合も)政府には「国民の理解がなかったから」と言う準備がある。現在同性婚に反対している人々は「無知で無理解だからひどいことをしちゃうの。でも分かってあげて。きっと日本の将来を心配したんだと思う」と政府によって語られる。スケープゴートの皆さんこんにちは。二回目ですね。

法には「国民に生き方を示し、心を育てる」教育的側面がある

 もちろん立法府は国民に責任転嫁するロジックを拡散するのではなく、同性婚について粛々と法整備を進めてもよいのです。そっちが仕事ですしね。「国民の合意がなければ進まない」というのは詭弁も詭弁であり、法の教育面をわざとないものに見せています。法は「国民に生き方を示し、正しい心を育てるために」掲げられるのです。「社会に偏見があるから」法が作れないのではなく、「社会に偏見があるからこそ」法が必要なのです。そもそもの順番がちがう。人が「総意でなければ法律は通せない」と考える時、狙い通りに「本来の順序」と法律の「教育的側面」が見落とされています。しかし想像して下さい――同性婚が整備された後の社会では、法的に結婚の権利を奪われている人はいません。同性愛者も「納税義務以外でも同じ国民として」存在するようになる。偏見は一朝一夕にはなくならないとしても、人々は着実に「話してみたらふつうの人だった」という経験を重ねていく(今、私たちが奪われている経験です)。今だって皆さんは分かっている――「法律が見放した人々を見て、法に守られた人々が彼らを本気で自分と同等だと思えるはずがない。だって法律が公然と差別しているのだから」。

「私がどう感じているのか」(未完)

 ひとりのゲイとして何か自由に書けると楽しみにしていたけど、やっぱ書かない。現状に腹たって来たから。またいずれ何か書く点はお約束できますが、ムカついている時はやめておきます。患者じゃなくても講師から私人に切り替えた途端こうなんだよ(だから常に給料を発生させておくのも良い方法だよ!)。いずれ、またの機会に書きます。メシ食うとか筋トレするとか(肩こり改善に禁トレが効くと知った50歳)ケアします。ごめんね。筋トレ、お父さんお母さんにもすすめてあげてね。パスタは沸騰したお湯に入れて一分間待ったら、フタして火を止めてもちゃんと茹で上がるよ。ケンカした時「男の気持ち」「女の気持ち」って便利な説明だけど、相互理解を諦める落とし穴でもあるよ。じゃあまた。

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