高さ83cmのグレートジャーニー
育休ライフがスタートして1週間ちょっと。2歳になった長女の保育園送迎も板についてきた。時間にして20分。毎日の「保育園への旅」には、毎回新鮮な気付きがある。もっと言えば、長女によって気付かされている。そんな日常の旅の記憶を、そっと残しておきたい。
高さ83cmの冒険家
スマホ片手にスーツ姿の二宮金次郎が行き交う旅路で、冒険家は五感センサーにフルコミットして目をキョロキョロさせている。
「ガタンゴトン!ガタンゴトン!!」
ん・・・?何か聞こえた?
裕に100m以上は離れている東海道線が駆け抜ける音に、馳せているようだ。全然気付かなかった。最近のお気に入りは電車。踏切に行くとキラキラした目を輝かせ、早くも地理屋への片鱗を見せている。
音にも敏感だ。自動車が音の速さで過ぎ去るとき、ヘリコプターやらスズメやらが空を闊歩するとき。なお、一緒に指さし確認をしないと、めちゃめちゃ怒られる。
「あっ、パン!」
え・・・?どこどこ?
5軒ほど歩みを進めると、最近オープンした食パン屋のことを指していたことに気付いた。全然気付かなかった。言われてみれば、ほんのり甘い香りがする。
高さ83cmの冒険家にとって当たり前など存在せず、すべての情報が目に新鮮に映っている。
「ああ、地球の裏側に行くだけじゃなくて、旅って日常の中にあるんだったよな」と反省しきりである。いかんいかん、チコちゃんだけじゃなくて、茨木のり子先生にも「ばかもの」と叱られちゃう。
これ、なんだっけ~?
道中にあるマンションの入り口に、親子鳥のレリーフがある。このレリーフに向かって、ある日、冒険家は突然こう叫んだ。
「パパ、のんのん!」
※のんのん・・・長女の一人称
パパ・・・のんのん・・・だと?家庭内では1勝9敗くらいでママに負けているだけに、このワンフレーズに心の中で拳を突き上げた。静かなる勝利宣言である。
そして、翌日から調子に乗った僕は、「これ、なんだっけ~?」「パパ、のんのん!」という自己満足のルーティンワークをせっせと行っているのである。
いやぁ。保育園への旅は、とても楽しい。
翔んで縁石
古今東西、なぜか子どもは縁石に登りたがる生き物である。登っては降り、降りては登り・・・おいおい、進まねーよ。という一言がココまで出かかるが、そのたびにチコちゃんの言葉を自戒する。
「子どもが縁石に登りたがるのは、限界に挑戦して己の能力を高めるため」
何と崇高な。僕がインドで馬糞にまみれながら洪水の街を進んでいたのと同じ挑戦を、日々、縁石で繰り広げていたのか・・・。
「子どもは皆、自己教育力を備えている」というモンテッソーリ教育の理念にもつながる冒険を・・・。
ちなみに、長女に「おーい、早く行くよ!」と伝えると、よほど気に入らなかったのか、繋いだ手を振り払って満面の笑顔で言うのである。
「パパ、バイバイ!」
いやぁ。保育園への旅は、なんとも辛い。
”恐れ”を植え付けているのは、誰?
保育園への旅の途中には、関門が待ち受けている。アチコチにあるゴミ集積所だ。燃える日の収集日となると、狙いすましたカラスの群れが、どこからともなく舞い降りてくる。
ビビりまくるオバちゃん、カバンを投げつけカラスを蹴散らすオジちゃん、そして・・・「かぁかぁ!!」と不敵な笑みを浮かべる2歳児・・・。なんという恐れ知らず。
さすがにカラスの群れに突っ込もうとしているのは静止したものの、ふと、先日交流させて頂いた白石康次郎さんの言葉が頭をよぎった。
「恐れを植え付けているのは、大人なんだよ。」
白石康次郎さんは言わずと知れた海洋冒険家で、単独無寄港無補給世界一周を4度も達成し、2020年から2021年にかけて行われた世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」では、アジア勢初となる完走を果たした。
白石さんの話はとにかく面白い。
レースの途中では常に死と隣り合わせという極限状態を何度も潜り抜けてきた人である。そんな白石さんだからこそ、「正しく恐れる」ことが重要だと言う。
「恐れ」を過大評価も過小評価もしないことが大切で、「正しく恐れさせる」ことこそ、大人が教えるべきたった一つのことかもしれない。あとは、子どもの好奇心を邪魔しないことだけだ。
白石さんは、こう続けた。
子どもって平均台の上を落ちないように大人に言われて、一生懸命に進んでいるんだよね。で、僕は早々にその平均台を降りたの。そしたら、無限の大地が広がっていたんだよね~~~!笑
最高である。
学校の先生は「挑戦しろ!」と言いがちである。では、挑戦させなくしているのは、どこの誰なんだろう?
子どもの好奇心は底なしである。
時には青あざを作ったり、失敗したりするけれど、でも必要以上に大人が先回りして「ダメ」とか「危ない」とかって、予防線を張りすぎてはいかなっただろうか?
白石さんは「必要以上に恐れさせることで、子どもは自分が大人から信頼されていないと感じる」と仰った。
教師として1年目、ある先生から贈られた言葉を今でも胸に刻んでいる。
線は引くけど、壁は作らない。
壁を作っては、子どもは思考しない。行き止まりである。線は、人に考える余白を与えるのである。
さて、今日も壮大な旅に出る。斜め後ろで、そっと冒険を見守りながら。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?