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センセイから見た「SDGsトイレットペーパー」誕生ヒストリー①

先生! 日本でもトイレ探究したいです!!

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2020年4月、高2になった原田怜歩(はらだ・らむ、以下「怜歩」)から急に連絡が入った。彼女が中2の頃、プレゼンの授業を担当したことがキッカケで、中3で「トビタテ!留学JAPAN 」の長期海外留学に挑戦する際、プレゼンの相談を受けていた。

当時、彼女は中学生ながら名だたる大企業の役員を前にして、独創性と熱意溢れるプレゼンで、学園で初めて長期留学奨学生に認定され、アメリカへの「トイレ留学」を実現させた。

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しかし、研究活動の最中、新型コロナウイルスによって、彼女は道半ばで帰国が余儀なくされることになった。そのような経緯で、冒頭の言葉に至ったのである。留学中も研究成果を報告してくれていた彼女の力に少しでもなるべく、緊急事態宣言による臨時休校中の4月からプロジェクトをスタートさせるに至った。

怜歩をリーダーとして4名で結成されたチーム・”Plunger”のミーティングは60回近くに及んだ。このnoteではトイレットペーパーが誕生した詳しい経緯については割愛する。お知りになりたい方は、readyforのページをご覧頂ければ幸いである。

ここでは、センセイ目線から見た探究的な学びの意義と舞台裏について、その軌跡を整理していきたい。

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「自分モード」から始めよ

帰国当初、まず怜歩が目指したのが「羽田空港におけるジェンダーフリートイレ設置」であった。現在、ビジネスの世界でも最も身に付けるべきスキルの一つとなった「デザイン思考」の手法を取り入れ、「発散→収束」のプロセスを繰り返していく中で、「やるべきこと」の解像度を高めることを目指した。

しかし、「What」を起点にしたアプローチは、今回のプロジェクトでは効果的ではないと後々反省した。どうしてもすぐに壁にぶつかったのだ。つまり、ビジョンが明確でなく、そもそも羽田空港にこだわっているのも、「トビタテの人に協力してもらえそうだから」という実現可能っぽい、という理由であったからだ(もっとも、僕自身のデザイン思考に対する理解が生半可だったことが一番の原因である気もしている・・・)。

近年、学校現場の「探究的な学び」においても、問いを立ててアイディアをカタチにするために「デザイン思考」の実践が蓄積され始めている。デザイン思考は課題発見・解決型の学びに適している一方、「誰かのニーズを満たす/ペイン(痛み)を解消する」ということに重きが置かれた手法であり、「自分がどうしたいか」よりも「他人はどう思うか」が重視される。つまり「他人モード」になりがちなのである。

生徒たちの日々の生活を想像しても「何をすべきか」でスケジュールが埋め尽くされており、なかなか自分軸で「何をしたいか」という視点で考える機会は限られているように思う。

Apple CEOのティム・クックが発言しているように、ビジネスの世界においても、「何ができるか」よりも「何をすべきか」が重視され、常にイノベーションの波に乗り続けなければならない程に、時代の潮流は速い。

でも、果たして常に誰かのニーズを満たす生き方が、本当に幸せと言えるのだろうか・・・。「誰かのための」探究で、好奇心のアクセルを踏み続けることが可能であろうか。


何がしたいか、何ができるか、何をすべきか

パリ第八大学心理学部准教授・小坂井敏晶氏や、法政大学キャリアデザイン学部教授・児美川孝一郎氏は、著書の中で共通して「何がしたいか」「何ができるか」「何をすべきか」の3つの視点から自己認識を深めることが重要であると述べている。

この3つの視点のバランスを取ることによって、日々の中で失われつつある「自分モード」を取り戻し、プロジェクトに最後までコミットするための揺るぎないモチベーションを維持できると考えた。なお、デザイン思考を用いたアプローチは、学習者が「何をしたいか」を自覚した後であれば有効だな、と感じた。

そこで、まずはマーケティング・コンサルタントのサイモン・シネック氏が提唱しているゴールデンサークル理論を用いて、「Why」という問いに立ち返ることにした。原田さんにとって「なぜ、トイレを巡るジェンダー問題が重要なのか?」を確認する作業だ。

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ゴールデンサークル理論
(https://www.kikakulabo.com/topic-gc/より)

また、怜歩とのメンタリングにあたっては、『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』や『原体験ドリブン』も参考にした。両書に共通するのは、潜在的な価値観を棚卸しすることで自分を深く掘り下げ、内発的動機、つまり「自分モード」から始めることに重きが置かれていた点である。

彼女に問い、話を聞いているうちに「親友との出逢い」と「中等部時代のアメリカ短期留学」という2つの原体験が明らかになった。トイレとジェンダーを通して、金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」、つまりノーマライゼーションという言葉すら不要な世界を創りたいというビジョンに気付くに至った。

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次の記事では、空想をカタチに実現させてくれたチーム結成~クラウドファンディング挑戦について書いていく。


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