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池袋の記憶とオリンパスOM-1

久しぶりに池袋に行った。「池袋クラシックカメラ博」を見るためである。以前は新宿高島屋で10年ほど開かれていて、昨年だけ上野松坂屋。そして今年から池袋である。もっと以前のこの手のイベントは、春と秋の年2回の「世界の中古カメラ市」だけで、銀座の松屋と新宿の伊勢丹が会場だった。その後は渋谷東急東横でも「世界の中古カメラフェア」と称して行われるようになった。渋谷はもうないんだったか。

「世界の…」が付いているものはI.C.S.という輸入カメラ協会主催で、これはライカやハッセルなどの高級品が多い。もう一方の「クラシックカメラ博」の方は、写真機商振興会主催で地方のカメラ店も参加し、資金が潤沢でない私などはこちらの方を楽しみにしている。

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会場は池袋の東武百貨店。池袋自体が久しぶりだった。学生時代は西武池袋線の東久留米に住んでいた。大学は江古田だ。飲食はそのふたつの街で、買い物は主に池袋だった。1984年当時はカメラ店はビックカメラがまだ1店舗のみ。少し経ってサンシャインの手前にさくらやがオープンした。「東が西武で西東武~」のビックカメラの歌のとおり、西武がセゾン・パルコ・リブロでお洒落な展開をしていて東口からサンシャインまでは若者で溢れていた。

それに対して西口の東武は年配者向けのイメージだった。子供のころのCM「ぶらんで〜と東武」そのままで。西口駅前も今でこそ整備されているが、当時はただ広い公園があり、その近辺には昼間から呑める居酒屋が軒を連ね、浮浪者や日雇い労働者が多くダーティーな環境だった。北口はもっと怖かったが。

その東武百貨店のレストラン街リニューアルをよく覚えている。いま調べると1990年11月だ。ああそうだ。今とちがって街はクリスマスで大騒ぎだった。大学卒業2年目。どうにかカメラマンとして仕事も入り始めたころ。グルメムックの小さいカットや、女性向け雑誌の特集ページなどで何度もそこを取材で訪れた。

出版社からもらう雑誌の特集の取材は、ちゃんと編集とライターと組んで周るので多少なりとも時間の余裕がある。ムック本などのマッチ箱大の写真は、最初にスケジュールを押さえられ、前日に当日のタイムスケジュールが書かれたFAXが送られてきて、カメラマンが単独で周るのだった。

確かこの池袋東武だったと思う。インド料理店の撮影があった。FAXの店のリストには、撮影時刻・店名・住所・TEL番号・店長または責任者名・撮影するメニューが書いてある。店長さんの名前は「ニーダさん」だった。

「ああ、インドの人かあ。日本語が分かるといいなあ」と危惧した。撮影は昼のオープン前もしくは午後の休憩時間に行う。中華やインド料理などの店だと、取材なしで撮影のみの場合は全員が外国人のことも多く、こちらの意思が伝わらず苦労することが多かった。撮影するテーブルを決めたらまず食器だけを出してもらい構図を決めて照明を組む。その後に作って出してもらうのだが、準備の最中に料理を出されてしまい「ああああ」なんてことになるのだ。

インド料理店に到着。出てきた店員に「〇〇の撮影で来ました。店長のニーダさんをお願いします」と伝える。すると「あーどーもー。店長の仁井田(にいだ)ですー」と福島訛りの小柄な日本人が出てきて、私は膝から崩れそうになったのだった。そういえばRCサクセションのドラムも新井田さんじゃないか。新井田耕造!こうちゃん!編集もどこかで「ニーダさん」だと伝わってしまったのだろう。あとで話して大笑いした。

久しぶりに訪れたら池袋東武百貨店60周年で、ふいにそんな事を思い出したのだ。催事場では「昭和レトロな世界展」が賑やかに開催されていて、中古カメラ博もその一部になっていた。インド料理店はなかったが、洋食屋さんで60周年限定メニューの懐かしのナポリタンを食べた。

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目的はオリンパスOM-1だ。言うまでもないが最近のそれではなくフィルムカメラの方だ。1970年代にペンタックスMXと一眼レフの小型軽量を争ったライバル。やはりその2台を揃えたくなった。出かける前から目星はついている。東京の老舗中古カメラ店S。目的のカメラは売れずにあった。程度を確認。価格も安く満足。店主としばらく話す。MXの話。OM-1の話。「打てば響く」とはこのことだ。今日は2日目で空いているので店主の方が話が止まらない。

そのボディは傷が少なく、OM-1の最初期にありがちなシルバーの上からのペイントだったら嫌だなと言うと、MDだから大丈夫じゃないかな?との返答。まあ剥げるほど使わないか。OMのレンズは他の店にもある。でもここで買おうと決めた。35mmのf/2.8。初期のMシステムだ。特にこだわりはないが若干高い。こちらは何も言っていないのに店主はスパッと千円単位を切ってくれた。これよ。このタイミングが粋なのだ。

ブースをぐるりと周ると店主が付いてくる。「ストロボいらない?」。OMシリーズ専用ストロボが1000円だ。「いや~100%使わないなあ」「あげるよ」「え?」

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1990年代前半。まだ景気も良くデジタルの影もなく中古カメラがたくさん売れたころ。中古カメラ市の会期中は絶対に値引きはしてくれなかった。デパートの店員が各店舗ブースににらみを利かせており、レジが配置されていた。ショバ代があるのでキツイという愚痴も聞いたことがある。そのため常連にはこっそり取り置きをして、「あとで店に来て」なんてことをやっていたのだ。

今回はレジはブースの外にあり、買い物した客はいったんそこで会計を済ませてブースに戻り品物を受け取るシステムになっていた。初日以外はたいして売れないイベントに店員の数を割けないのだろう。最近ではネットで購入することも多くなったが、やはり経験豊富な中古カメラのプロとの会話は楽しい。何度も書くが「ちゃんとした」中古カメラ店の末永い存続を望むばかりである。


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